2017年07月26日

栖來光『在台灣尋找Y字路』(栖來ひかり『台湾、Y字路さがし』)

当ブログでは、現在台湾滞在中の研究員Aと所長(10歳)の親子留学日記が日々更新中ですが、今回は日本残留中の研究員Bがポストします。

今回取り上げるのは、今年1月に刊行されてから静かに話題になり続けている、台湾在住のライター・栖來光(栖來ひかり)さんの著書、『在台灣尋找Y字路(台湾、Y字路さがし)』(玉山社,2017: 玉山社のページ博客來Facebook)。日本語と中国語の両方で読めるように書かれたこの本は、台北を中心に、台湾の街の中にふと現れる45の「Y字路」をめぐって、その地をめぐる歴史やさまざまなエピソード、著者の思いを綴った文章がまとめられたものです。随分前から紹介したいと思っていたのですが、ようやくご紹介します。

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執筆の経緯は、フォーカス台湾の記事によると、著者の栖來さんが台北市同安街で見つけたY字路の写真を会員制交流サイトに投稿したのがきっかけだったとのこと。この投稿に対してコメントを受け、道路に隠された歴史があることを知り、それから台北の過去の地図が見られるアプリ「台北歴史地図」を使いながら各地のY字路に赴き、さまざまな発見を記録していったそうです。それをまとめて生まれたのが、この『在台灣尋找Y字路』ということわけです。

上の記事では、「現代の都市の作りでいうと、碁盤の目が基本。Y字路は不自然な道。なぜ不自然な形なのかというと、絶対に理由がある。それが面白い」という栖来さんの言葉が引用されています。そう、この「Y字路」への着眼が実に面白く、川沿いの地域(というとまとめすぎかもしれませんが)が発展してできた街・台北は、その経緯ゆえにさまざまな地形の変貌を伴って、そして台湾自体の複雑な歴史も相まって、現在の姿になっています。初めてこの本について知ったとき、Y字路とは、なんといい目の付け所!と思いました。台北の街を少しでもイメージできたならば、地理的・歴史的な奥行きを必然的に伴う「Y字路」に着眼した本というだけで、興味を抱く人はたくさんいるのではないでしょうか。

こうして書かれたこの本、この経緯だけを聞くと、NHKの番組「ブラタモリ」を思い出す人も少なくないと思います。番組を知らない方のために、「ブラタモリ」の公式サイトから引用すると、「街歩きの達人・タモリさんが、“ブラブラ”歩きながら知られざる街の歴史や人々の暮らしに迫る「ブラタモリ」。……ある土地のナゾに導かれ、ナゾを解明しようと、今話題の出来事や街に残された様々な痕跡にタモリさんが出会いながら、街の新たな魅力や歴史・文化などを再発見していきます」と説明されています。『在台灣尋找Y字路』も、台北のY字路に注目してこれに近い試みをした本だといえるかもしれません。

ただ、実際に『在台灣尋找Y字路』を読んでみると、「ブラタモリ」とは微妙に視点が違うようにも感じられました。確かに「ブラタモリ」に通じる部分はたくさんあるし、「ブラタモリ」が好きな人が読んでも楽しめるのは間違いありませんが。

「ブラタモリ」は、上の引用にもあるように、訪れた土地の「ナゾ」を解明すること、土地に残された「痕跡」を掘り下げることへの関心が基本にあります。「ナゾ」・「痕跡」へのこだわりや偏愛、解明・追究の「探偵っぽい」視線が、その特徴だと思います。もちろん、かなりゆる〜いスタンスではありますが(笑)。

一方、『在台灣尋找Y字路』は、確かにY字路が生まれた地理的・歴史的背景を探りはするのだけど、「ブラタモリ」ほどには謎解きや痕跡へのこだわりは強くないように思います。何かを解明しようとしたり、痕跡にことさらにこだわったりという、いわば知的関心が前に出るのではなく、著者の栖来さんのY字路への視線は、もっと軽やかなものです。

『在台灣尋找Y字路』の各章の中には、個々のY字路が形成されるに至った地理的・歴史的な背景を知る過程を通して、自由な想念や想像を展開させている章がいくつもあります。Y字路の歴史をいろいろとたどっていくうちに、栖来さんの出身地の山口の話につながったり、当時と現在の台湾のコントラストに気づいたり、かつてのその地を生きた人たちの生きざまに思いをはせたり。Y字路の謎を解明して一段落するというより、Y字路をめぐってさまざまな出来事や思いが連なっていくところが、『在台灣尋找Y字路』のユニークな点です。知的関心に基づく眼差しでY字路をみるというより、Y字路を知ることを通じて、自らの想像の手がかりを見つけていき展開していくところに、この本の個性があるように感じました。

その意味で、右か左かの選択を迫るかのような個々のY字路に対して、栖来さんは別にどちらか一方を選択してはいないように見えます(!)。どちらかを選んで、さっさとY字路を通過してしまったりせずに、栖来さんはY字路を前にして、そこにたたずみながら自由に想像力を展開しているようです。それこそ、まるで横尾忠則のY字路の作品のように。

『在台灣尋找Y字路』は、Y字路を通じて台湾の歴史を知ることの面白さを伝えてくれる本です。でもそれ以上に、台湾のY字路を“味わう”ことの興味深さを伝える本であると思いました。だから、この本を読むと、台湾のY字路に行ってみたい、探してみたいと思うだけでなく、街をこんな風に“味わう”ことができるんだということを知ることができます。

一種のガイドブックとしても、歴史の読み物としても、もちろん「ブラタモリ」的な関心にこたえる本としても読むことができる本ですが、何よりも、街の自由な味わい方の一つのかたちを伝えてくれる本だと思いました。

本の中で紹介されている45の「Y字路」はどれも魅力的で、実際に足を運んでみたくなります(通ったことがあるはずなのに、気づいていない場所も!)。個人的には、以前行ったことがある文萌樓からほど近い歸綏街のY字路が気になりました(というか、このあたりをいろいろ歩いてみたい)。文章として印象に残ったのは、信義路四段400巷についての章(軽妙さが印象的!)。本題と関係ない点では、月見ル君想フでの岸野雄一さんたちのイベントの話や、蛋堡や顔社がふと出てきたりするのも興味深かった!

なおこの本は台湾の出版物なので、日本での入手方法は限られますが、Facebookで「書店およびネットでのお取り扱い状況」がまとめられているので、ご参照を。

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posted by 研究員B at 17:02 | Comment(0) | TrackBack(0) | 本・雑誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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