2010年08月21日

「PK」

台湾のウェブや広告やテレビ番組などなどを、日本からネットなどでちらちらと断片的に見るだけでも、よく出くわす表現がいくつかあります。そんな表現の一つが「PK」。

台湾で用いられるこの「PK」という表現ですが、二つのグループや個人が、1対1で対決すること全般を表す際に登場しています。

例えば「PK賽(PK戦)」という言い方がありますが、これをみると「ああサッカーの」と思うかもしれません。でも、この議論や、ブログ「台瘋來了!!」のエントリによると、「PK」はサッカーに由来するというよりは、むしろオンラインゲームの世界でいう「プレイヤーキル (Player Killing) 」(大雑把にいえば、ゲーム中で相手のプレイヤーを倒すこと)に由来している、という話のようです。

いずれにせよ、最近の台湾では、上記のとおり、「二つのグループや個人の、1対1での対決」という契機があるものなら、何でも「PK」と呼ばれます。

試しにGoogle台湾でニュース検索をしてみると、例えばこんな話題が。この中で「PK賽」という表現が出てきます。

蘋果日報「誰説金門無正妹 女PO圖反駁」

蘋果日報の動画だけなのもどうかと思い(!)、一応もうひとつ。



要するに、馬祖の高校生がブログで「金門無正妹!(金門島には美人なんていない)」と書いたところ、反発を呼んで「炎上」してしまい、ブログを閉じる羽目になったという話。「有種舉辦正妹PK賽,看是金門贏,還是馬祖贏!」(金門と馬祖で美人対決をやって、どっちが勝つか見てみようじゃないか!、って感じ?)という声もあったとか。こんな風に、サッカーやゲームとは関係なく、単に二つの勢力(この場合は金門と馬祖)の対決はPKと表現されているわけです。しかし、何もこんな話題のために金門に行って女性にインタビュー取材を重ねなくてもいいような気もしますが(!)。

さらには、「PK専門の投票サイト」なんてものまであります。

yam天空_PK吧!
芸能ネタから政治ネタまで、さまざまな二つの選択肢に対して「選ぶならどっち?」という感じで投票を募集しているサイト。「棒棒堂vs飛輪海」とか、「死刑制度に賛成vs反対」とか。でもここは芸能ネタが多いかも。

愛PK-PK辯論站
こちらも同様なサイトですが、もっと多種多様な話題でPK人気投票をやっていますね。「大學宿舍該不該男女分宿?」とか「Google還是Yahoo較好用?」とか。でもここは、「型男正妹PK」といって、応募があった美男美女(?)の写真を載せて、美男美女と思うか・思わないかの投票を募集するという企画(!)が目玉のようです。うーん、応募する方も投票する方もなんだかすごいな。

というわけで、台湾社会にあふれる「PK」、奥が深いというか際限がないというか、大変な状況になっているかも?!
タグ:台湾 ことば
posted by 研究員B at 01:48 | Comment(0) | TrackBack(0) | 語学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月15日

台湾語・台湾華語の教材情報6 終わってみての雑感編

「台湾語・台湾華語の教材情報」シリーズ。本日は「終わってみての雑感編」。今回のシリーズ執筆のためにリサーチする中で、いろいろと考えたことを書きます。今まで書いた「きっかけ編」「台湾語教材編」「台湾華語教材編」「辞書編」「歴史資料編」などとあわせてご覧ください。

さて、今回台湾語・台湾華語の教材を調べてみて、まず感じたこと。こんなに沢山出てるんだ! 「きっかけ編」でも書いたけど、研究員Aがその昔、台湾語を学んでいた頃、市販の教材なんてほとんど見当たらなかった。繁体字なんて、目もくれられなかった。そもそも台湾という国に、人はほとんど目を向けていなかった。中国語を学んでいた私のような人間ですら、「台湾て…えーと?」みたいな感じだったのだ。

それが、戒厳令が解除され、近場の海外旅行先として人気が高まり、お茶や食べ物に興味が向けられるようになり、あまつさえドラマが日本語字幕で放映され、台湾出身のアイドルに熱心なファンがつくようになり…。いやもう、この現象自体が隔世の感。しかも、それと共に中国語・台湾語への関心も高まっているなんてことがあろうとは!なんというか、私の知っていた台湾とは全く違う台湾がそこにある感じ。まさに新時代到来。そのことがうまく認識できていない自分自身のオババさ加減を思い知りました。がっくし。

で、話はここで終わるかというとそうではない。「歴史資料編」でも紹介したけど、台湾語教材をリサーチしている時に、図書館でいくつか古い資料にめぐりあった。戦前に発行された台湾語教材。調べてみると、他にもぽろぽろあるみたい。あまり気合を入れずに探してもこれだけ出てくるってことは、けっこう出版されてたんだろうなあ。へえ。そう思った時に、はたと気付く。

私は、台湾語・台湾華語ブームは最近の新しい現象だと思っていた。そして、そのことにシンプルに衝撃を受けていた。でも、それは本当のところ、新しい現象ではないんじゃないだろうか。だって、明治〜昭和前半までの時代に、台湾語がこれだけ熱心に学ばれていた時代がある。今のブームは、決して「初めて」のものではないのだ。

植民地期に支配国が被支配国の研究を積極的に行う、というのはよくある現象。実際、台湾研究の蓄積が最も厚いのは日本植民地期ともよく言われる。戦前に発行された様々な台湾語教材を見ていると、確かにちょっと納得。私が見た限られた資料の中でも、確実に研究蓄積は積み重なり、台湾語への理解が深まっていくのが分かったから。

でも、何故これほどに台湾語が研究されたのか? 「序」なんかを見ていて印象的だったのは、警察関係の人が多くコメントを寄せていること。たとえば、1年で台湾語を習得というコンセプトで書かれた 『台湾語之研究』の著者は警察官。そして、序には台北州警察部長が以下のような言葉を寄せている。

台湾――殊に地方等にあって善く意思疎通をはかり、凡ての事情に通じようとするには、如何にしても台湾語を自由に操るのでなければ目的を達し得ない。
熊谷良正 『台湾語之研究』 (台北:台湾日々新報社、1931年)

台湾で働く日本人警察官にとって、現地で暮らす台湾人との意思疎通は必要不可欠。だから台湾語は命綱みたいなものだったに違いない。台湾語を学ぶという動機には、今よりよっぽど切実なものがあったのだ。

でもそうやって台湾語を学び、台湾の人々を理解するのは何故か。かなり早い段階で出版された『新撰実用 日台会話自在』の序で、警視の肩書きを持つ人物が以下のように書いている。

漢民族の旧慣は依然として思想界を横流し、同化の機又た遅々として進まず。畢竟是れ思想交換の用具たる言語の共通なきが為めなり。盖し本島にして既に日本帝国の一部たる以上は、台湾語も亦帝国国語の一種たるに相違なしと雖も、一国民の間に、全く組織を異にせる二個以上の言語の存在するは、国民の恥辱にして、彼の白耳義(ベルギー)の如き小弱国にあらざる以上は、決して忍び得べきものにあらず。故に吾人は常に台湾語が、将来全く日本語の内に吸収し去らるるの日あるべきを期せざるべからざるなり。
川合真永 『新撰実用 日台会話自在』 (台北:台湾語通信研究会、1912年)

一つの国の中に言語が複数あるのは「国民の恥辱」である。だから台湾語は日本語に吸収されなければいけない。そのために、今、台湾語を学ぶ必要がある。って、この論理、なんだか変だと思うのは私だけでしょうか。台湾語をなくすために、台湾語を習得しなければいけない、ってどういうことよ?

もちろん、台湾語教材作成に関わった人のすべてが、こう考えていたわけではないと思う。特に、執筆者には、意思疎通がうまくいってないのを何とかしないと、という使命感にかられている人が多い気がした。でも序を寄せるような「偉いさん」には、上記のような「同化」の論理をちらつかせる人がいる。そして、この二種類の人達はどこかで確実に結びついている。だから、単純に現場は頑張ったけど、上は馬鹿だった、という話にもならない。なんだかややこしい。でも、それが「植民地」というものの構造の一つなんじゃないかと思う。

今の台湾語のブーム。もちろんこの時とはまったく状況が違う。でも「台湾語」と日本の結びつきは、実は古くて、すごく太い。そしてそのことを、人はきれいさっぱり忘れている。書庫に眠るたくさんの台湾語教材たちと今、出版されている台湾語教材。過去に台湾へ向けられた関心と今の台湾ブーム。これらはそれぞれ全く別のものなんだろうか。だとしたら、過去のあの重厚な研究蓄積は、熱い関心は、どこへ行ってしまったんだろう。どうして私は、私達は、そんなことがあったということすら、きれいに忘れているんだろう。なんだか記憶喪失みたい。それって何を意味するんだろう。

答えは当然出ない。でも「台湾」というものに向かいあっていると、どこかで出くわす問い。現代の台湾語・台湾華語への関心の高まりに驚きを覚えたことからスタートして、戻ってきたのがこの問い。奇しくも今日は8月15日。65年前、台湾が「日本」でなくなることが決定的となった日。「おきらく」は「おきらく」なりに、そのことの意味を考えてみたりしている。
posted by 研究員A at 23:42 | Comment(0) | TrackBack(0) | 語学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月14日

台湾語・台湾華語の教材情報5 歴史資料編

「台湾語・台湾華語の教材情報」シリーズ5回目。今回は歴史資料編。台湾語・台湾華語の教材をリサーチする中で研究員Aがめぐりあった明治〜昭和前半の台湾語の教材情報をご紹介。現代日本で台湾語を学ぶには何の役にも立たない情報かもしれないけれど、ぱらぱら眺めてみたらすっごく面白かった。なんでかというと、「語学教育」のメソッドが、過去の日本でどう展開していたかがよく分かる。しかも「台湾語」という過去に研究蓄積がまったくない分野で。台湾に興味があって、語学に興味があって、過去の日本に興味がある研究員Aにとっては、なかなかツボな素材だったのだ。

というわけで、やや好事家的な内容になるけれど、研究員Aが実際に手に取ってみることができた台湾語教材を5冊ほどご紹介。古い日本語、研究員Aは好きなのでそのまま引用してしまったけれど、苦手な方はとばして読んでください。漢字やかなの表記は読みやすいように適宜手を加えました〜。

でも私はもっと普通の台湾語・台湾華語教材の情報が知りたいよー、という方は、「きっかけ編」「台湾語教材編」「台湾華語教材編」「辞書編」などをお読みください。

では、いざ。

1. 川合真永 『新撰実用 日台会話自在』 (台北:台湾語通信研究会、1912年)
ともかく文法を体系的に説明しようとした本。名詞、代名詞、形容詞、動詞…と品詞ごとに解説。その上で、後半は会話集。著者は、「近来時勢の発展に伴ふて、日台語学研究者の数が大に増して来たにつれ随って多数の日台会話書が、種々の名称の下に出版されて居るが、何れも単純なる会話編で、根本的に言語の構成法を説いた書物は一冊もない」と冒頭で嘆いている。だから、きちっとした文法解説書を作りたかったのだと思う。こういう語学を学ぶメソッドが日本でどういう風に発達してきたのか、研究員Aはよく知らない。でもぱらぱら読んだだけでも、筆者がすごく苦労しながら「台湾語」という新しい分野で文法書を作り上げようとしているのはよくわかる。わかるけど…、これって読んで理解できるのかな。「人称代名詞に名詞を附する場合には原則として代名詞と名詞との間に「的」なる助詞を挟まねばなりません」とか。いやまあ、その通りなんだけど、すべて文法がこうやって文章で説明されているのって、現代としては異様じゃないですか。記号を使ったり、図を使ったり、視覚的に教材を工夫してるから。実際、私はこれを読んでて、逆に混乱した。

2. 劉克明 『国語対訳 台語大成』 (台北:新高堂書店、1916年)
ここで言う「国語」は「台湾華語」ではなく、「日本語」。内容は「音調篇」(発音)、「語法篇」(文法)、「会話篇」と大きく三つに分かれている。特に発音のところは力を入れたと著者自身も書いていて、「台湾語の「ム」と国語の「ム」の差異」「台湾語の「ヌ」と国語の「ヌ」の差異」「台湾語の「ン」と国語の「ン」」などという項目が目次には並ぶ。カセットやらCDやら抱き合わせで販売できない時代だもんね。この辺の発音教育は大変だあ。ちなみに「台湾語の「ム」と国語の「ム」の差異」は次のように説明されてます。

台湾語の「ム」は上下の唇を密閉して其の音を鼻腔から漏らして生ずる音(唇的鼻音)ですが、国語の「ム」は一旦右の如く音を鼻腔から出して其のあとに閉ぢた唇を開いて「ウ」の音を発するのですから、台湾語の「ム」と国語の「ム」は違ひます。

…わかりますか? 私はわかんないです…。

3. 岩崎敬太郎 『羅馬字発音式 台湾語典』 (台北:台湾語典発行所、1922年)
すっごくオーソドックスな台湾語入門書。冒頭に、「本書は普通の脳力を有する講習者をして、約80時間に簡易なる台湾語の大体を正則に習得せしむるの目的を以て編纂せり」と書いてある。今風に言えば、「80時間で台湾語をマスター!」って感じ? でも、第一章の「音」(母音・子音)から始まって、2.「調」(声調)、3.「音便及転調その他」(声調変化や語尾の変化)、4.「語法」(簡単な文法」、最後に「単語類集」っていう構成は、今の語学学習書とすごく近い。なんか眺めているうちに、「これならマスターできるかも」と私は思ってしまいましたよ。ところで、この本で特徴的なのは、タイトルにもあるようにローマ字式」の発音表記があること。でも、何しろ縦書きしか存在しない時代の本だから、こんなことになる。

台湾語辞書1.jpg

上が台湾語(漢字にひらがなルビ)、真ん中が日本語訳、下がアルファベット発音表記。正直見にくい。でも、これって出版社が活字にするの、かなり面倒だよね? ううむ。ご苦労がしのばれる。

4. 熊谷良正 『台湾語之研究』 (台北:台湾日々新報社、1931年)
厚い。『中日大辞典』くらいの厚さがある。このぐらいになると、研究の蓄積もたまってきたのかしら。内容も「発音」「音調」「単語集」「語法1〜18」「日常の挨拶」と充実。「本書は母国人及本島人をして約一箇年に彼此の言語を修得せしむる目的を以て編纂致しました」。つまり一年で台湾語がマスターできるように作った教材だってこと。「3」が「80時間」だったのだから、それより厚くなるのは当然か。しかし「語法」(文法)項目は圧倒的な充実ぶりで、ぱらぱら目次を眺めているだけでも勉強になる。中国語は文法というよりも、特徴的な言い回しをたくさん覚えるのが重要、ってとこあるじゃないですか。そういう「言い回し」がたくさん載っている。だから、これ一通りマスターしたら、相当できる人になってるだろうなー、という予感がする。

5. 片岡巌『日台俚諺詳解』(台南:台湾語研究會、1913年)
ことわざ辞典。日台、台日、日本語の順でことわざが並べられている。「辞書編」で紹介した『五カ国語共通のことわざ辞典―日本語・台湾語・英語・中国語・韓国語対照』と違って、軸になっているのは日本語。いつの時代でも、こうやってことわざを集めようという人が現れるっていうのは面白い現象だよな、と思う。あと興味深かったのは、台湾の中でも北部だけ、南部だけで通用する諺がある、と凡例で言及されていること。なるほど。過去の台湾なら、それはありそう。逆に現代はどうなのかな?と変なところが気にかかる。

6. 安倍明義編 『蕃語研究』 (台北:蕃語研究會、1930年)
これは台湾語の本ではない。でも見つけて、衝撃を受けたのでご紹介。これは、原住民語の解説本。取り上げられているのはアミ語、プユマ語、パイワン語、サリセン語、ブヌン語、ヤミ語、クバラン語。そしてそのそれぞれについて、文法、会話、単語の解説がされている。一つ一つはそれほど長くはないが、これだけ並べてあると、当然のことながら本は厚くなる。もうこうなってくると、中身について評価することは不可能。しかし、一つの言葉に16の言語(原住民語+α)が対応する形で並べられている単語集など、見てるだけで圧巻。すごい。

以上5冊。そんなに一生懸命探したわけではないのにこれだけぽろぽろ出てくるってことは、昔はいっぱい台湾語の教材が出ていたんだろうなー、と思わず感慨にふける。それで、ふと思い立って国会図書館の近代デジタルライブラリーで「台湾語」で検索してみたら、教材っぽいものが5冊ほどヒット。「日台」でも4冊ヒット。興味のある方はこっちも見てください。該当の本がすべてPDFで見られます。(ありがとう、国会図書館!)

しかし、現代の台湾ブームのおかげで充実してきた台湾語・台湾華語教材をリサーチし、その過程で過去の台湾語教材も手に取る機会を得た研究員A。なんだか色々と、それはもういろいろと思うところがあった。せっかくなので明日、シリーズ最終回として「終わってみての雑感編」を書きます。しつこいようですがお付き合いください。

関係ないけど、今日とりあげた本のいくつか。閉館間際とは言え、閲覧室で携帯のシャッター音ならしながら写真を撮っていた私を見逃してくださった他の閲覧者の皆さま、ご迷惑をおかけしました。見てないだろうけど、ここで謝ります。もうしません。

台湾辞書3.jpg
posted by 研究員A at 23:38 | Comment(0) | TrackBack(0) | 語学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月13日

台湾語・台湾華語の教材情報4 辞書編

何事もなかったかのように「台湾語・台湾華語の教材情報」シリーズ再開。本日、第4回目は「辞書編」。これまで、「きっかけ編」「台湾語教材編」「台湾華語教材編」と書いてきたので、未読の方はそちらもどうぞ。

さて台湾語・台湾華語に関係する辞書。教材ほど数はないので、台湾語・台湾華語双方に関係するものをとりまぜてご紹介。実は辞書好きな研究員A。調べてて一人で盛り上がってました。

1. 村上嘉英 『東方台湾語辞典』(東方書店、2007年)
 【研究員Aの買いたい度 ★】
★の数が少ないのは、単に研究員Aが台湾語初心者でまだ辞書を買うレベルにないから、というだけ。もしあなたが台湾語の辞書を買おうかなと思っているのならば、まずこれを買うべしと強くお勧めしておきます(まあ台湾語の辞書なんて他にないから、お勧めも何もないのだけど)。コンパクトでとっつきやすい体裁は、導入の辞書として最適。単語がアルファベット順に並んでいるのも読みやすい。個人的に印象に残ったのは、冒頭に筆者が書いているこの辞書編纂の経緯。前に諸橋大漢和の作成過程について書かれた『『大漢和辞典』を読む』を読んだ時も思ったけど、辞書って我々の想像もつかないような苦労を乗り越えて作られている。それを越えてまで作ろう、という編纂者たちの情熱ってどこから来るのかしら? 自分がこうやって簡便に未知の言葉を学べるということに、心から感謝したくなるようなエピソード。

2. 台湾総督府(編) 『台湾語大辞典』 (国書刊行会、2002年)
 【研究員Aの買いたい度 ★】
店頭にはなく、ネットでも在庫切れ表示。なので、図書館で見てきた。1931年に台湾総督府が出した『台日大辞典』の復刻版。本気で台湾語を極めたい方は入手すべし。なぜなら収録語数が圧倒的に多い。その数、約9万語! 「1」に収録されているのが13,500語ということを考えると、その凄さが分かるだろう。偉いぞ、国書刊行会! よくぞ復刊してくれた!! ただもちろん難点もあって、単語がひらがな表記順に掲載されている。コツをつかむまでは自分の求める単語にたどり着くのに時間がかかりそうだな。まあ高いし本格派すぎるので、私は必要になったら図書館で利用する程度の使い方になりそうだけど。

3. 張福武 『五カ国語共通のことわざ辞典―日本語・台湾語・英語・中国語・韓国語対照』 (慧文社、2007年)
 【研究員Aの買いたい度 ★★★】
これも図書館で見た。編者は台湾生まれ。台湾大学を出た後、アメリカで修士・博士号をとった理系の研究者。台湾語のことわざと同じような言い回しが他の言語にもあることに気付いて集めてみた、という説明が冒頭になされていた。な、なんて気軽な…。で、この経緯からも分かるけど、この辞書の面白いのは「台湾語にあることわざ」が軸になっていること。そこから他言語で同じものがあるかを探していったという過程なので、「日本語」が中心ではない。「台湾」に興味を持つ人にはうってつけ。ことわざってちょっと知ってるだけで文脈が飛躍的に理解できたり、相手に「やるな」と思わせたりできるから、学んでおいて損はない。中国語も英語ものってるし、手元に置いて拾い読みしたいなー、と個人的には思う。

4. 邱質朴編 『大陸和台湾詞語差別詞典』 (南京大學出版社、1990年)
(Seesaaブログは繁体字を表示してくれないので「台湾」の字は変えてます)
 【研究員Aの買いたい度 ★★★★】
たまたま図書館で見つけた。リンク先は台湾で発行された版なので、微妙に書誌情報が違う。もしかしたら大陸版と台湾版で微妙に内容が違ったりするのかもしれないけど、とりあえず大陸版について説明すると、大陸にあって台湾にない単語を前半で、その逆を後半で説明している辞書。これは「北京語は学んだが、台湾華語は今一つ分からん」状態の研究員Aのツボに激しくはまる。北京語と台湾華語の間にある「誤差」を埋めてくれる材料になるから。辞書の構成も面白くて、大陸にあって台湾にない言葉の場合、単語を[簡体字/繁体字」と二種類で表記。発音も[ピンイン/注音字符]で表記。説明文は繁体字。後半になると、[繁体字/簡体字」[注音字符/ピンイン]、説明文が簡体字、となる。ちなみに、後半では「甜不辡」なんて言葉も載っている。楽しいぞ。中国辞書について膨大な情報量を誇るこちらのブログによると、この辞書が出版された後、台湾から大陸へと持ちこまれた単語もあるみたいで、その辺は時代と共に追いかけていかなければいけない部分があるのかも。

しかし、上記のブログを見ると他にも楽しそうな辞書が色々。気になる〜、と見ていて、はたと思いついた。こういう台湾華語と北京語の「誤差」を埋めるための教材は、むしろ中国語で出版されてるんじゃない?今、気がついたぞ。すごく単純なことなのに。これは、次回出張時に調査すべき項目ですな。

さて、「台湾語・台湾華語の教材情報」シリーズ、これで終わりかと思いきや、まだちょっと続きます。次回は、本シリーズ執筆のため資料探しをしていてめぐりあった古い台湾語教材について。ちょっとマニアックだけど、すっごく面白かったので紹介します。題して「歴史資料編」。お楽しみに!

posted by 研究員A at 23:13 | Comment(0) | TrackBack(0) | 語学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月11日

台湾語・台湾華語の教材情報3 台湾華語教材編

「台湾語・台湾華語の教材」シリーズ第3回。今回は、最も関心が高いと思われる台湾華語教材編。台湾華語が何かについて説明し始めると、大変なことになりそうなので割愛。とりあえず、台湾で使われている中国語で繁体字を用いる、ぐらいのゆるい定義でお許しください。

しかし今回まとめてみて思ったが、台湾華語を学ぶっていうのは意外に難しい。「きっかけ編」でも書いたとおり、日本の中国語教育は北京語がベース。「傍流」扱いである台湾華語をわざわざ説明してくれる本なんて、ほとんど見当たらない。いっそ台湾語ぐらい別言語として認識されちゃえば話は別なんだろうけど、やっぱり中国語は中国語だし。

でも一方で北京語と台湾華語って、どこかで決定的に違う瞬間もあるわけで。研究員Aは北京語の基礎を叩きこまれているので、台湾華語の基本的な文法や発音は理解できる。だけど、全体のニュアンスが分からずもやもやっとすることも多い。台湾華語独特の語彙やら言い回しというのが確実にあって、それがうまく理解できないみたいなのだ。

多分、今の日本で台湾華語を学ぼうと思ったら、まず北京語を学ぶ→その後、台湾華語に触れながら慣れる、という方法しかない。そして「慣れる」ためには、日本語訳を確認しながら台湾華語を読む機会がないときつい。だけどそもそも、繁体字を使う中国語教材が少ない!だから今回はいわゆる「語学学習書」という枠に当てはまらないものでも、台湾華語−日本語が併記されていて教材になりそうなものを集めてみました。

1. 和田健一郎、李慧君 『中国語は台湾で学べ 台湾華語のススメ
(NPO法人日台学生交流会、2010年) 1,680円
 【研究員Aの買いたい度 未見のため★なし】
出版元が変わっているせいか、店頭で見つけられなかった。でもタイトルからしてずばり、なので載せときます。どんな内容なのかしら?実際に手に取った方、感想を教えてください!

2. 小道迷子 『小道迷子の台湾ではじめよう、中国語』 (三修社、2010年) 2,100円
 【研究員Aの買いたい度 ★】
発音の基礎を漫画と台湾華語を用いて説明するという画期的な本。研究員Aとしては、ちょっと初心者すぎる内容なので買いたい度は低くなったが、中国語初心者の研究員Bなら★3つくらいにランクアップするのでは。台湾が気になるのでこれから中国語を始めようと思ってる。でも中国語って何?台湾の中国語と中国の中国語って何が違うの?みたいなシンプルな疑問をお持ちの方にはすごくお勧めです。

3. 趙怡華 『CD BOOK 台湾語のスラング表現 (アスカカルチャー)
(明日香出版社、2007年) 1,785円
【研究員Aの買いたい度 ★★★★★】
タイトルには「台湾語」とあるけど、「台湾華語」に置き換えた方が正確な気がする。台湾ドラマ好きで中国語始めました、な人達は絶対に「買い!」ですよ。普通に中国語学んでいても絶対に出てこない「今」の表現がいっぱい載っているから。構成は1ページごとに1表現にフォーカス、それを使った会話と豆知識というもの。豆知識を読んでいるだけでも、それなりに面白い。とりあげる表現は本当に様々で、注音字符を使った表現なんかが載ってるのが台湾好きとして嬉しいところ。

4. 趙怡華 『はじめての台湾語 (アスカカルチャー)』 (明日香出版社、2003年) 2,415円
 【研究員Aの買いたい度 ★】

5. 趙怡華、陳豐惠、たかおかおり 『CD BOOK 絵でわかる台湾語会話 (アスカカルチャー)
(明日香出版社、2006年) 1,995円
【研究員Aの買いたい度 ★★】

6. 趙怡華著、陳豐惠監修 『(まずはここから!)やさしい台湾語カタコト会話帳
(すばる舎、2008年) 1,365 円
【研究員Aの買いたい度 ★★★】

7. 趙怡華著、陳豐惠監修 『CD BOOK 台湾語会話フレーズブック
(明日香出版社、2010年) 3,045円
【研究員Aの買いたい度 ★★★★★】

上の4〜7までは「台湾語教材編」で紹介したのと同じもの。よって詳細はそちらをご参照くだされ。台湾語と台湾華語が併記されているので、台湾華語のフレーズ集としても読めるな、と思ったんで載せときます。どれか一冊買うとするなら、断然「7」がお勧め。収録されているフレーズ数が圧倒的に多いので、読んでるだけでも相当勉強になる。

8. 片倉佳史 『旅の指さし会話帳8台湾 [第二版] (ここ以外のどこかへ!)
(情報センター出版局、2004年) 1,365円
→コンパクト版は、片倉 佳史 『旅の指さし会話帳 mini台北 [台湾華語]
(情報センター出版局、2009年) 714円
【研究員Aの買いたい度 ★★】

9. 太田垣晴子、浜野史子 『イラスト会話ブック 台湾―台湾中国語
(ジェイティビィパブリッシング、2006年) 1,050円
【研究員Aの買いたい度 ★】

10. 大田垣晴子、浜野史子 『台湾 (絵を見て話せるタビトモ会話―アジア)
(ジェイティビィパブリッシング、2009年) 1,260円
【研究員Aの買いたい度 ★】

11. 『台湾編 (ひとり歩きの会話集) (ひとり歩きの会話集 18)
(ジェイティビィパブリッシング、2010年) 1,365円
【研究員Aの買いたい度 ★★★】

12. 片倉佳史、石野真理 『食べる指さし会話帳 4台湾 台湾 &中華料理 (ここ以外のどこかへ!)
(情報センター出版局、2003年) 1,575円
【研究員Aの買いたい度 ★★】

8〜12は、語学教材ではないのだけれど、台湾華語と日本語が対照できて、簡単な会話指導書としても読める本。どれが良いかは、レイアウトやらイラストやらノリやらの好みによると思う。だけど、語学学習者にお勧めは「11」。理由は簡単、例文がいっぱい載っているから。他はイラストを入れて「見やすさ」を追及している分、語学学習者的には無駄が多い。ちなみに、これらの本はすべてピンイン表記なし!平仮名に声調記号で発音が示されている。仕方ないけど悲しい…。

13. 光瀬憲子 『ビジネス指さし会話帳 4台湾華語
(情報センター出版局、2008年)1,575円
【研究員Aの買いたい度 ★★】
この種の本としては画期的なことに、ピンインが記載されてる!ビジネスの現場って、一番台湾華語と北京語の違いが問題を引き起こしそうな場なので、役に立つ人はいるのでは?

14. 玖保キリコ 『JAPAN 中国語(繁体字)~日本語 (イラスト会話ブック)
(ジェイティビィパブリッシング、2009年) 1,575円
【研究員Aの買いたい度 ★★★★★】
「8〜13」までは、日本人が台湾に行ったら、という想定で作られているけど、この本は逆。台湾人が日本に来た時、台湾華語で日本をどう紹介するか?の例文集。これがけっこう読んでて面白いし勉強になる。だって和菓子・地方特産品からメイド喫茶まで、台湾華語でどう説明するか?これを覚えるだけでも、けっこう知識になりそうではないですか!小さ〜いフォントながら、英語が併記されているのも語学好きとしては楽しい。

15. 遠藤雅裕 「台湾華語入門」 (中国語ジャーナル 2010年 03月号 [雑誌]
  【研究員Aのお勧め度 ★★★★★】
本じゃないのだけれど、やっぱりこれは台湾華語を学びたい人にとっては必読。詳しくは過去の研究員Bのエントリをご覧あれ。語彙だけではなく、文法にまで触れているという点で本当に貴重。ちなみに遠藤雅裕先生はtwitterをやっていらして(こちら)、時々ものすごく濃い言語学ネタがつぶやかれるので、興味のある人はfollow him!

うーん並べてみると、やはり「台湾華語を学ぶ」というコンセプトがいかに日本で成立しにくいかが分かるなあ。良い方法、ご存知の方はお知らせください!(←こればっかり)。

次回、「辞書編」に続く。
posted by 研究員A at 23:53 | Comment(0) | TrackBack(0) | 語学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする