2015年11月21日

2015金馬獎・ノミネートリストの再チェック

なんだかずっとあれこれ忙しく、本来ならとっくに書き終えているはずの「台灣同志遊行」(台湾プライドパレード)についての定例エントリも、今年はまだ間に合わず…という状況ですが、あっという間に金馬獎の発表の時期になってしまいました。というわけで、これまた恒例の、発表直前のノミネートリストを再チェックするエントリです。

明日(もう今日ですが)11/21(土)に発表されるのは、第52屆金馬獎。頒獎典禮(授賞式)の会場は、昨年に続き台北・國父紀念館です。今年の主持人は黃子佼と林志玲、星光大道(レッドカーペット)の主持人は昨年に続き楊千霈と楊達敬の二人です。

今回も例年同様、ほぼリストのみの長〜いエントリですが、ご容赦を! 台湾作品中心にみていきます。


●最佳劇情片(最優秀作品賞)
醉‧生夢死(『酔生夢死』:2015東京フィルメックス)
踏血尋梅
刺客 聶隱娘(『黒衣の刺客』:2015.9公開)
塔洛(『タルロ』:2015東京フィルメックス)
山河故人(2015東京フィルメックス)

●最佳動畫長片
西遊記之大聖歸來(『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』:2015東京・中国映画週間)
麥兜.我和我媽媽

●最佳紀錄片(最優秀ドキュメンタリー賞)
32+4
明天會更好
我的詩篇
灣生回家
大同

注目の《湾生回家》(Facebook)、受賞なるでしょうか。

●最佳創作短片(最優秀短編映画)
日光之下(邱陽)
無無眠(蔡明亮)(『無無眠』:2015東京フィルメックス)
保全員之死(程偉豪)
孝悌兒童(陳建彰)
吉日安葬(王通)

蔡明亮監督の《無無眠》は安藤政信が出演。蔡明亮はこの作品で、台北電影節で最優秀監督賞を受賞しています。
程偉豪監督の《保全員之死》は台北電影節で短編映画作品賞を獲得した作品ですが、この監督の長編第一作《紅衣小女孩》(Facebook)が、間もなく台湾で公開されます。ホラー作品だそうです(アジアンパラダイス;ところで紅衣小女孩って、先日SNSの新刊紹介でとりあげた『ムー』に載っていた「魔神仔」だ!)。
《孝悌兒童》(Facebook)も台湾作品で、もともと公視學生劇展の作品。
《吉日安葬》は台湾映画ではないかもしれないけど、大陸で活動している台湾の女優・王者心が製作と出演の両方で関わった作品のようです(中時)。

●最佳導演(最優秀監督賞)
張作驥(醉‧生夢死 『酔生夢死』)
徐克(智取威虎山3D 『タイガー・マウンテン〜雪原の死闘〜』:2016.1公開)
侯孝賢(刺客 聶隱娘 『黒衣の刺客』)
萬瑪才旦(塔洛 『タルロ』)
賈樟柯(山河故人)

●最佳男主角(最優秀主演男優賞)
李鴻其(醉‧生夢死 『酔生夢死』)
郭富城(踏血尋梅)
馮小剛(老炮兒)
ケ超(烈日灼心)
董子健(コ蘭)

●最佳女主角(最優秀主演女優賞)
林嘉欣(百日告別 『百日草』:2015東京国際映画祭)
張艾嘉(華麗上班族 『華麗上班族』:2015東京フィルメックス)
宋芸樺(我的少女時代)
舒淇(刺客 聶隱娘 『黒衣の刺客』)
趙濤(山河故人)

『百日草』の林嘉欣がノミネート。他にも大物ずらりの中、《我的少女時代》の宋芸樺が入っています。

●最佳男配角(最優秀助演男優賞)
鄭人碩(醉‧生夢死 『酔生夢死』)
柯宇綸(念念 『念念』:2015東京フィルメックス)
白只(踏血尋梅)
張少懷(青田街一號)
王千源(解救吾先生)

張少懷は張菲の息子さんですが、出演作品が最近一層多く、活躍している感あり。『黒衣の刺客』にも出演していますが、ここは《青田街一號》でのノミネート。

●最佳女配角(最優秀助演女優賞)
呂雪鳳(醉‧生夢死 『酔生夢死』)
金燕玲(踏血尋梅)
馬思純(左耳 『ひだりみみ』:2015東京・中国映画週間)
簡嫚書(菜鳥)
蔣雯麗(師父)

『ひだりみみ』は中国映画になるのでしょうが、監督は台湾の蘇有朋(アレック・スー)。《菜鳥》(Facebook)は、宜蘭縣文化局長の役目を終えた鄭文堂監督の久々の作品。簡嫚書、いろいろ出演していてほんと大活躍です。

●最佳新導演(最優秀新人監督賞)
蘇有朋(左耳 『ひだりみみ』)
李中(青田街一號)
相國強(少年巴比倫 『少年バビロン』:2015東京国際映画祭)
畢贛(路邊野餐 『凱里ブルース』:中国インディペンデント映画祭2015)
陳玉珊(我的少女時代)

《青田街一號》も《我的少女時代》もぜひ観たいのですが…。

●最佳新演員(最優秀新人賞)
李鴻其(醉‧生夢死 『酔生夢死』)
春夏(踏血尋梅)
白只(踏血尋梅)
蘇麗珊(哪一天我們會飛)
阿洛.卡力亭.巴奇辣(太陽的孩子)

鄭有傑監督《太陽的孩子》(Facebook)もぜひぜひ観たい! Cinem@rt MAGAZINEに日本語での紹介記事あり。

●最佳原著劇本(最優秀オリジナル脚本賞)
張作驥(醉‧生夢死 『酔生夢死』)
林書宇, 劉蔚然(百日告別 『百日草』)
翁子光(踏血尋梅)
管虎, 董潤年(老炮兒)
賈樟柯(山河故人)

『百日草』、ノミネートされています。あの脚本は(脚本に限らず、ですが)確かに高く評価されてしかるべきと思います!

●最佳改編劇本(最優秀脚色賞)
張艾嘉(華麗上班族 『華麗上班族』)
阿城, 朱天文, 謝海盟(刺客 聶隱娘 『黒衣の刺客』)
徐浩峰(師父)
萬瑪才旦(塔洛 『タルロ』)
鄭有傑, 勒嘎‧舒米(太陽的孩子)

『黒衣の刺客』、原作とされる「空を飛ぶ侠女 聶隠娘」は、岩波文庫『唐宋伝奇集(下)』で簡単に読むことができます。10ページに満たない長さで豪快に展開する(笑)物語、ぜひ一読を!

●最佳攝影(最優秀撮影賞)
許之駿, 張誌騰(醉‧生夢死 『酔生夢死』)
杜可風(踏血尋梅)
李屏賓(刺客 聶隱娘 『黒衣の刺客』)
呂松野(塔洛 『タルロ』)
余力為(山河故人)

●最佳視覺效果(最優秀視覚効果賞)
黃宏達, 張仲華(黃飛鴻之英雄有夢)
郭建全, Christian RAJAUD(狼圖騰)
Jason H. SNELL, 潘國瑜, 湯冰冰(捉妖記 『モンスター・ハント』:2015東京・中国映画週間)
金 旭(智取威虎山3D 『タイガー・マウンテン〜雪原の死闘〜』)
Rick Sander, Christoph Zollinger(一步之遙)

●最佳美術設計(最優秀美術賞)
種田陽平, 李健威(捉妖記 『モンスター・ハント』)
張叔平, 邱偉明(華麗上班族 『華麗上班族』)
易振洲(智取威虎山3D 『タイガー・マウンテン〜雪原の死闘〜』)
黃文英(刺客 聶隱娘 『黒衣の刺客』)
柳青(一步之遙)

●最佳造型設計(最優秀衣装デザイン賞)
奚仲文(捉妖記 『モンスター・ハント』)
張叔平, 呂鳳珊(華麗上班族 『華麗上班族』)
黃文英(刺客 聶隱娘 『黒衣の刺客』)
張叔平(一步之遙)
翟韜, 陳玉葉(コ蘭)

●最佳動作設計(最優秀アクション監督賞)
元奎(黃飛鴻之英雄有夢)
李忠志(殺破狼II)
元彬(智取威虎山3D 『タイガー・マウンテン〜雪原の死闘〜』)
劉明哲(刺客 聶隱娘 『黒衣の刺客』)
徐浩峰(師父)

●最佳原創電影音樂(最優秀オリジナル映画音楽賞)
林尚コ, 曾韻方(醉‧生夢死 『酔生夢死』)
龔ト祺 (蘇打 - 阿龔)(百日告別 『百日草』)
陳揚(念念 『念念』)
林強(刺客 聶隱娘 『黒衣の刺客』)
半野喜弘(山河故人)

個人的な注目はなんといっても蘇打高フ阿龔! 『百日草』の音楽は印象的でした。

●最佳原創電影歌曲(最優秀映画主題歌賞)
漆K的海上(詞・曲・唱:丁可 踏血尋梅)
糾纏(詞・曲・唱:乱彈阿翔(陳泰翔) 青田街一號)
何必呢(詞:林夕 曲:羅大佑 唱:陳奕迅 華麗上班族 『華麗上班族』)
小幸運(詞:徐世珍, 吳輝福 曲:JerryC 唱:田馥甄 我的少女時代)
不要放棄(詞・曲・唱:舒米恩.魯碧 太陽的孩子)

乱彈阿翔、イーソン、Hebe、スミンと華やか。

●最佳剪輯(最優秀編集賞)
鐘仁波(我的詩篇)
張作驥(醉‧生夢死 『酔生夢死』)
陳博文(念念 『念念』)
丁晟(解救吾先生)
廖慶松(刺客 聶隱娘 『黒衣の刺客』)

●最佳音效(最優秀音響効果賞)
郭禮杞(青田街一號)
曾景祥, 李耀強, 姚俊軒(捉妖記 『モンスター・ハント』)
杜篤之, 吳書瑤, David Richardson (HKSE)(華麗上班族 『華麗上班族』)
杜篤之, 朱仕宜, 吳書瑤(刺客 聶隱娘 『黒衣の刺客』)
張陽(山河故人)

●年度台灣傑出電影工作者(最優秀台湾映画人賞)
侯孝賢

●終身成就獎
李麗華



『黒衣の刺客』と『酔生夢死』は本当にたくさんの部門でノミネートされていますが、その二つに限らず、台湾作品は今年多々ノミネートされている印象があります。『百日草』《青田街一號》《我的少女時代》《太陽的孩子》なども複数部門でノミネートされていて、素晴らしい限り。

個人的に気になる部門は、最優秀短編映画と最優秀映画主題歌賞です。特に前者は、新しい可能性が潜んでいる気がして注目。

というわけで、最後にひとつだけ動画を。最優秀映画主題歌賞にノミネートされている、《青田街一號》の主題歌・乱彈阿翔の「糾纏」。この雰囲気、あふれる(?)張孝全、《青田街一號》ぜひ観たい!



posted by 研究員B at 02:08 | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年09月23日

『黒衣の刺客』を観てきた! その2

先日、渋谷TOEIで侯孝賢監督最新作『黒衣の刺客』(《刺客聶隱娘》、日本公式サイト)を観てきました。(先に観た研究員Aのレビューはこちら

おもしろかった! というわけで、観た直後につぶやいた感想は以下の通り:

『黒衣の刺客』観た! スー・チーかっこいい!
あの服、袖のあたりの赤いラインの入り方、たたずまい、本当にかっこいいなあと思っていると時間が過ぎていく。彼女に限らず、どの出演者の衣装も見とれるレベルの見事さ。そしてどこに行けばこんな映像撮れるんだと感嘆の映像美。

『黒衣の刺客』、これだけの映像美に見合う物語ってすごくバランスが難しいと思うけど、いい具合に(?)説明不足で、観る側の手探り感がある感じと、ある種過剰なまでの映像の見事さとのブレンド具合が、とっても絶妙に感じました。(B)


で、帰宅してから研究員Aとあれこれ話したのですが、一致した結論は、「『黒衣の刺客』はエンタメであり、娯楽作品である!」というものでした。この作品については、いろいろ小難しい言葉が語られるのを見かけることが多いけど(そして、それはそれで決して意味がないわけではないけど)、でも基本はなんといっても娯楽作品であって、侯孝賢だからといってこねくりまわす必要はなく、リラックスしてシンプルに楽しめる作品、と感じました。

エンタメ作品っぽくない雰囲気を感じるのは、物語がわかりやすいとはいえないからかもしれません。ただ、上に「説明不足」と書いたけど、Aいわく「過去の侯孝賢の映画と比べれば十分説明的だった」と。うーん、それはそれで確かにそうかも。実際、わかりにくい点があるとすれば、ストーリーそのものというよりも、登場人物の説明が少なかったことにあるのでは。

というわけで、改めて日本公式サイトの「人物相関図」を見てみました。映画を観る前にもこれを見ていたので、見つけにくいと評判だった(笑)イーサン・ルアンもちゃんと観ながら確認できていたのですが、映画を観たあとにこの図を見ると、なんだか不十分な気がしてきました。確かに主要人物はカバーされているけど、載っていない人もいるし、説明もなんだかちょっと足りない気が…。むしろよくわからなかったのは、これに載ってないくらいの登場人物なわけで、パンフを買ってくるべきだったかと思いつつ、ネットにもう少し詳しい情報はないか探してみました。

で、たどりついた(というか、当然真っ先に見ておくべきだった?)のが、この映画の中文公式サイトにある、「人物關係圖」のページ。11人の画像入りにとどまった日本公式サイトと違い、こちらは14人をカバー。さらに個々の登場人物の関係に、日本版になかった説明も書き加えられています(聶隱娘の母と田季安の父がいとこであるとか)。もしかしたら、パンフを買えば、こちらくらいの内容が載っているのかもしれないけど、日本公式サイトにはなぜ簡略化した図を載せたのだろう? 謎です。

で、映画を観ていて私自身が一番「あの人だーれー?どういう関係のひと?」となったのは、突然聶隱娘と戦う仮面の女性・精精兒だったのですが、この「人物關係圖」を見て納得。精精兒、田季安の正室・田元氏と「雙面」として結び付けられている! 正室でありながら見事な刀使いになるのはさぞ大変かと思いますが(!)、そうだったんだー、と思いました。精精兒については、「あの人は誰」状態になった方は他にもいらっしゃるようで、検索するとさまざまな推察をしたり、彼女の登場に象徴的な意味を読み込んで解釈したりする例も見かけたけど、実際には身も蓋もなく、田元氏イコール精精兒だったようです(観てすぐわかった人には、間抜けな話ですみません!)。

あと、さらにその後、Aが見つけたのが中央社のこの記事です:「刺客聶隱娘 人物關係圖曝光」。この記事にも人物関係図が載っていて(こちら)、これもまた日本公式サイトの図にはない情報がみられます。たとえば、聶隱娘・田季安・夏靖(イーサン・ルアンが演じた)の3人が「兒時玩伴(幼なじみ)」であったとありますが、これは中文公式サイトの図にもない情報です。

この記事の中に、こんな記述があります(厳密な訳じゃないのでご容赦を):「カンヌで上映した際に、多くの人が「精精兒は周韻が演じていた田元氏ではないか」という疑問を抱いた。侯孝賢も、映画の登場人物の関係をわかりやすく説明する図をつくることを望んだ。人物関係図があれば、映画を観る前に観客はストーリーが大まかに分かるし、さまざまな登場人物の関係についても簡単に説明しておくことができる。映画を観終わったあとに確認することもできる」。

つまり、人物関係図は「予習・復習」のためのものであると、侯孝賢自身が明言していた(!)というわけです。登場人物の関係を映像のみで理解して観ていく必要はなく、この図で「予習」しておけばよいと!

こうなってくると、象徴論的・映画論的な読解を求める作品というよりは、当初に書いたとおり、人物情報を事前にきっちりチェックした上で、徹頭徹尾エンタメ作品として楽しんじゃった方がやはりいいのかも?なんて思えてきます。というわけで、未見のみなさん、ばっちり人物関係図で予習して、きらく〜に楽しんで観てきてください!

あ、眠くなるという声も多かったけど、Aも私も眠くなりませんでした。私の場合は、上記のとおりスー・チーのかっこよさと映像美のすごさに圧倒されているうちに、全然眠さを感じずに最後まで行きました。将来DVDとかも出ると思うけど、あの映像はやはり大スクリーンで観るのがお勧めです。ぜひぜひ!

posted by 研究員B at 21:47 | Comment(2) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年09月16日

『黒衣の刺客』を観てきた!

侯孝賢監督最新作『黒衣の刺客』(《刺客聶隱娘》、日本公式サイト)を観てきた! 面白かった! 美しかった! 楽しめた!!

カンヌで監督賞とった作品だし、分かりにくいんじゃないのー。難しいんじゃないのー。と思ってるそこのあなた。もったいない! とりあえず観なさい。(そんなに)難しくないから。分かりやすく…はないけど、とりあえずかっこいいし、きれいだから、それをうっとり観ればいいから。つべこべ言わず、観に行こう〜。

と人をたきつけた後に、以下、自分の感想。ネタバレありますので、ぜひ観てから読んでください。

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posted by 研究員A at 22:49 | Comment(2) | TrackBack(1) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年06月07日

『あなたなしでは生きていけない 不能沒有你』

『あなたなしでは生きていけない(不能沒有你)』

いよいよ閉館が迫ったシネマート六本木、最後の上映企画の1本として、台湾映画『あなたなしでは生きていけない(不能沒有你)』が上映されました。2009年にSKIPシティ国際Dシネマ映画祭で上映されていますが(あとアジアフォーカス・福岡国際映画祭やみんぱくでも上映された気が)、その時は観られなかったので、今回ついに!(研究員B一人だけですが)観てきました。

まずは基本情報を:

『あなたなしでは生きていけない(不能沒有你)』
導演 / 戴立忍
演員 / 陳文彬、趙祐萱、林志儒
wikipedia(中文)臺灣電影後浪潮

予告編はこちら。もしかしたら、若干ネタバレ感あるかな? 未見の方はご注意を。




社会の不公平さの批判と、父子愛の物語。この作品、まとめてしまうとそうなのだけど、そういう単純なまとめ方をすると抜け落ちてしまうような、シンプルさと冷静さと説得力に満ちた、淡々としつつも揺さぶられる、力強い作品でした。地味ではありますが、多くの人に観てもらいたい、本当に印象的な映画です。

後になって思ったのは、この作品の目線が非常に「客観的」だということです。社会の不公平さや不条理を批判するニュアンスを見出すこともできるかもしれないけど、そこにいわば没入しているというか、批判者の目線で描かれているかというとそうではありません。また、父と子の思いと絆も丁寧に描かれているのだけど、その描き方も淡々としたものです。特定の登場人物の視線に同一化することなく描ききっているという意味で、とても「客観的」だと感じました。

そして、客観的な描き方がなされているからこそ、特定の誰か“わるいやつ”の悪意でこういう事態が招かれたというのではなく、それなりに合理的な仕組みの中で引き起こされてしまっていることがリアルに伝わり、それゆえに問題の根深さや、主人公の壁にぶつかった思いも一層切実に感じられました。また、父と娘の思いも、ことさらにその思いや絆の強さにクローズアップするのではなく、海の中を見つめる子どもの姿や、台北から戻る道中で果物をとるシーンなどを重ねることで、客観的な説得力を積み上げていて、それがまた困難の重みとしんどさを確かに伝えることにつながっていました。

とまあ、後からならこういう風に語れるけど、観ている最中は、メイ(妹仔)が所長(8歳)と年が近いこともあり、うるうるして全然冷静に観られませんでした…(涙)。でも、なんというか、いわゆるお涙頂戴的な作品ではないんですよね。とても落ち着いた、丁寧に描かれた作品で、実に見事だと思いました。金馬獎をはじめ、多くの賞を受賞したのは納得です。


この作品、監督はレオン・ダイ戴立忍中文wikipedia日本語wikipedia)。ご本人は出演していませんでしたが、この力量は本当に見事でした。

父親・ウーシュン(李武雄)を演じていたのは陳文彬wikipedia)。社会運動家でありつつ映画監督でも俳優でもあるこの人、数多くの作品に関わったキャリアがあります。

娘・メイ(妹仔)を演じていたのは趙祐萱。お母さんが雲門舞集(クラウドゲイト・ダンスシアター)のダンサーなんだとか(蘋果日報「《不能沒有你》趙祐萱 媽媽是雲門舞者」)。とても印象的な、存在感のある演技でしたが、その後映画などに出演した様子がみつからない…。

修理屋の財哥を演じたのは林志儒。俳優よりは監督として仕事をされている方のようで、客家電視台のドラマをいくつか監督しているほか、白色テロの時代に日本人を匿うことを描いた映画《牆之魘》を監督していたりします。俳優としては、TIFFなどで上映された『Together(甜‧祕密)』に出演していたみたいだけど、何の役だったかわからず…。『KANO』にもちらっと出演した、かも?


『あなたなしでは生きていけない(不能沒有你)』、上映は6/12(金)までです。未見の方、タイミングがあえばぜひ!

201506no_puedo.jpg

posted by 研究員B at 01:42 | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年05月07日

『ピース!時空を越える想い(大稻埕)』その3

残念ながら5/8で終了してしまう、シネマート六本木の「台湾シネマ・コレクション2015」。今回も引き続き《大稻埕》『ピース! 時空を越える想い』について。「その1」(レビュー)、「その2」(歴史関係の雑情報)に続き、今回は「その3」として、出演者の情報と挿入歌について書こうと思います。
(本当は、映画愛に満ちてとってもおもしろかった『おばあちゃんの夢中恋人』や、独特のインパクトがあった高クオリティ作の『EXIT エグジット』も、(まだ上映機会があるうちに)ぜひ取り上げたいのだけど…)

さて、まず出演者について。
この作品の出演者は非常にたくさんいますが、とりあえず主要な登場人物を中心に。

●朱正コ(大学教授)/豬頭師を演じていたのは、豬哥亮wikipedia)。台湾中高年層に本当に人気の、おかっぱ頭の彼。実は「姊姊」の謝金燕の父でもあります。

●大学生の陳佑熙/YO-SHIを演じていたのは宥勝。彼については説明不要ですかね。《犀利人妻》でも共演した隋棠と、まさか親子関係になるとは(!)。

●阿蕊を演じていたのは、簡嫚書。ドラマ『あの日を乗り越えて(那年,雨不停國)』『シュガーケーキガーデン(翻糖花園)』、そして映画『狼が羊に恋をするとき(南方小羊牧場)』などに出演した彼女、今回はまた違った雰囲気の役でした。着実に幅を広げている感あり。

●阿純を演じていたのは、隋棠(ソニア・スイ)。阿純の最初の登場シーンは決まっていて格好良かった! ソニアさん、ああいうコスプレ感がある方がハマる気がしなくもない。

●蔣渭水を演じていたのは、李李仁wikipedia)。多くの作品に出演している人ですが、個人的にはどうしても陶晶瑩の夫というのが一番に浮かぶ。

●茶行の主人役は楊烈、その息子は李易。楊烈はベテランの歌手で、ドラマの出演も多数。妻は日本の方です。李易はコテコテ系のドラマによく出ている印象がある俳優。妻の六月もこの映画に出演していました(阿純の店の客)。

●アヘンの売人役だったのは吳朋奉。この人も多くの作品に出演していますが、思い浮かぶのはドラマ『あの日を乗り越えて(那年,雨不停國)』や映画『父の初七日(父後七日)』。日本の警部・黒崎を演じていたのは葛西健二。『セデック・バレ』など、台湾の作品に多数出演。

●阿純の店に来ていた客で、常に何か食べている(!)女性は鍾欣凌。いろんなドラマでお姿を見ますが、「台湾シネマ・コレクション」上映作品では『午後3時の初恋(沉睡的青春)』にもシリアスな雰囲気で出ていました。

他にもたくさん出演者がいますが、映画の中文wikipediaに充実したリストがあるので、そちらをご参照あれ。そういえば、序盤のタイムスリップ前の大学でのシーン、ジェイ・チョウと結婚した昆凌も出ていました。


次に、音楽について。いくつか動画を貼り付けておきます。
まず、映画の中で使われた歌で華やかな印象を与えるのは、PopuLadyの宇珊が歌う「向前走 (穿越復古版) 」。アレンジも悪くないです。



それとぜひ聴き比べてほしいのは、同じ「向前走」の、独特の味わいに満ちたこのヴァージョン。林宥嘉です。



最後に、映画の片尾曲「青春是」。S.H.EのSelinaが歌っています。




あれこれ書いてきましたが、日本で上映されることはないだろうと思っていたこの映画が、日本で楽しく観ることができたことはうれしい限り。難しいとは思うけど、今後も日本各地でまた上映される機会があることを祈ります!


posted by 研究員B at 00:27 | Comment(3) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする