2018年04月13日

『オン ハピネス ロード』(幸福路上)の台湾(3)

3月の東京アニメアワードで上映され、長編アニメ部門のグランプリを受賞した、台湾映画『オン ハピネス ロード』(原題:幸福路上FacebookInstagram)。この映画で描かれている台湾社会の背景や歴史について、自分が気づいたこと(映画を観て気づいたことや、映画を観たあとで調べてわかったことなど)を、書いてみるシリーズの第3回目です。ちなみに第1回はこちら、第2回はこちら

第1回・第2回に書いたとおり、既にこの映画を観たことがある人向けですので、ネタバレもあります。また、わかりやすさを重視し、厳密さに目をつぶった点もあります。誤りや不十分な記述もあるかもしれません。問題点に気づいた方は、ぜひご指摘ください。

第1回と第2回のエントリだけでは、とりあげることができた点はごく限られており、まだまだふれておくべき点はたくさんあるでしょう。例えば、作品中に登場する台湾芸能史上の著名人たち(豬哥亮や歌仔戯の楊麗花など)。あるいは、日本アニメの存在感(ガッチャマンやキャンディ・キャンディ。ちなみに小h(チー)の結婚相手はアントニー(安東尼)という名前ですが、これはやはりキャンディ・キャンディに由来するもののようです)。さらには、戒厳令解除後の民主化運動の展開(高校生の小hが目撃したのは、1991年5月の「獨立台灣會案」関連の動き)。作品中に少しだけでも登場する、実際に起きた出来事は、他にも多数あります(1999年の921大地震、陳水扁の再選や不支持の声の高まり、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件、ひまわり学生運動など)。

ただ、もう明日(今日)4月13日には、東京アニメアワード以来の日本での上映機会となる、台湾文化センターでの『オン ハピネス ロード』の上映会が開催されるので、その前にひと区切りをつけようと思います。というわけで、この第3回では、解説めいた内容は控えめに、この映画が描いているものについて改めて考えてみます。


【「正解」/「不正解」、「幸福」/「不幸」】

第2回の後半では、小hと陳幸、の選択をさりげなく対比させるように描くことで、「医者にならない」という選択をすることが人生の「正解」であるといった結論になってしまうことを回避しているという指摘をしました。

この例に表れているように、『オン ハピネス ロード』の大きな、そしてとても重要な特徴は、人生には「正解」「不正解」があるという単純な結論に落ち着かないようにしている点にあると思います。そしてまた、だからといって「結局人生は人それぞれ」というような別の形の均質化や単純化に向かうのではなく、むしろそこに人生の奥行きを見出し、個々の多様な人生のあり方それぞれを慈しむ姿勢がみられるところです。言い換えれば、「幸福」に定型的な形があるわけではないこと、さまざまな「幸福」のあり方はそれぞれ固有の価値があるということが、この映画には穏やかに(でも確かに)描かれています。

ただ、こうした姿勢は、一見「正解」や「幸福」に見える状況もまた、永続的なものではないということを躊躇なく描くことにもなります。小hの小学校でのクラスメートの少年・聖恩は、小学校を去ることになりますが、父親とともに教師に向かって小学校を去ることを告げる場面は、学校的な価値観に従って生きることへの反発を示すものです。そのような聖恩は、屋根の上から将来たくさんのお金を稼ぐのだと叫んでいましたが、実際にその後の彼は、バイク修理業で成功をおさめ、小hと偶然に再会したときには、高級マンションを買うほどになっていました。こうしたサクセスストーリーは、経済的成長の時代の台湾ではいくつもみられたのかもしれませんが、(小hが結果的に実現したような)学歴上の成功という学校的な価値観に反発した聖恩が、最終的に学歴のトップといえる「博士」の家を得る(聖恩が住む高級マンションの名前は「博士的家」でした)という展開は、大変印象的です。でも、だからといって「学歴の追求なんて意味はない」という単純な結論に落ち着くのかというとそうではなく、むしろその「博士的家」が921大地震(1999年に台湾で起こった大きな地震)で倒壊してしまうというのは、この映画が「正解」の提示で落ち着いてしまうことを、シビアに、かつ断固として避けるものであることを示しています。


【「幸福路上」】

屋根の上で夢を語った3人は、結局誰もそれを実現できなかった、という内容の言葉が作品中で語られます。確かに、誰も完璧な幸福を手にすることはできなかったかもしれません。でも、3人は「不幸」だったのでしょうか?

この作品は、できあがったものや、万人に共通のゴールなどとして、「幸福」を描こうとは一切していません。この点は本当に貫徹されていたと思います。逆に言うと、不完全かもしれないし、永続的でないかもしれないけれど、だからといってそれが「幸福」の名前に値しないわけではないということが、確かに描かれていたように思います。

この映画のタイトルは、「幸福路上 On Happiness Road」でした。このタイトルは、文字通りの地名としての「幸福路」にいるということだけでなく、「誰もが幸福へ道のりの途上にいる」、あるいは「誰もが幸福という道の上を既に歩んでいる」という含意をうかがわせます。実際、TAIWAN TODAYの記事(元は中央社の記事)によると、宋欣穎監督はかつてこう語ったことがあるそうです。「私たちは誰もが幸福路(ハピネスロード)を歩いているのだ。しかし、多くの人々が、幸福というのは実は自分のすぐそばにいるということに気が付いていないのだ(其實我們每個人都在幸福路上,可是也許沒有走過這一遭,就不會明白原來幸福就在你身邊)」。

直接的には、この映画は台湾に根差した、台湾に生きる人たちの経験を描いたものです。上の宋欣穎監督の言葉も、一般的なことというよりも台湾の人たちを想定して語られたものです。でも、この映画が語るものは、台湾という文脈を越えて、明確な「幸福」像が見えにくい、既存の「幸福」像が幸福に思えない、完璧な「幸福」にたどりつくことができないと痛感している人々にとって響くものになっているように思います。きわめてローカルで台湾的でありながら、普遍的な意味をもつ作品として成立していることの見事さは繰り返し強調したい点です。

でも、本当にこの作品がすごいところは、「幸福」を描いていることそのものにあると思います。「正解」として幸福を描かないこと、つまり幸福かもしれないものの不完全さや不透明さ、限定性などを曖昧にせず見失わないこと、同時に多様なあり方をもちうるものとして幸福をとらえること、それをすべて達成しながら、ネガティブでなく、「自分のすぐそばにあるもの」として幸福を描いていることが、観客に響くのではないでしょうか。

映画の最後の小hは、決して完璧な状況にあるとはいえないでしょう。喪失の経験やこれまで負ってきた傷、将来の展望の不透明さなど、もしかしたら「不幸」にさえ見えるかもしれません。それでも、映画を観てきた人たちは、この小h(たち)の姿に、とても確かな「幸福」を見出すことができるのではないでしょうか。この奥行きのある「幸福」の豊かな描出を、ぜひ多くの人に味わってほしいと思います。


posted by 研究員B at 03:04 | Comment(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月09日

『オン ハピネス ロード』(幸福路上)の台湾(2)

3月の東京アニメアワードで上映され、長編アニメ部門のグランプリを受賞した、台湾映画『オン ハピネス ロード』(原題:幸福路上FacebookInstagram)。この映画で描かれている台湾社会の背景や歴史について、自分が気づいたこと(映画を観て気づいたことや、映画を観たあとで調べてわかったことなど)を、書いてみるシリーズの第2回目です。ちなみに第1回はこちら

第1回にも書きましたが、既にこの映画を観たことがある人向けですので、ネタバレもあります。また、わかりやすさを重視し、厳密さに目をつぶった点もあります。誤りや不十分な記述もあるかもしれません。問題点に気づいた方は、ぜひご指摘ください。


【祖母】

小h(チー)の阿嬤(祖母)はアミ族という設定です。台湾にはさまざまな先住民族が暮らしています(現在の台湾では、「原住民」という表現が、当事者によって用いられるものでもあり、社会の中でも一般的な表現として定着しています)。アミ族は原住民の一つのグループで、小hの祖母は花蓮に暮らしているようです。祖母の姿を通して描かれるアミ族の信仰や、鶏をさばくエピソード、檳榔や煙草をたしなむ様子などは、小hにとっては戸惑う面もあるものです。ただそれでも、小学校の同級生から祖母を「野蛮」と揶揄されたことに対しては、小hは本気で怒りをみせます。祖母が語る「不一様就是力量」、他の人たちと異なることはむしろ力であり、強みなのだという言葉は、社会を構成する多様性を積極的にとらえようという、近年の台湾社会にみられる意識にもつながるもののように思われます。

多様性という点では、ベティの子どもたちが語った言葉に、現在の小学校には東南アジアにルーツがある子どもたちがいることをうかがわせるものがあったと記憶しています。実際に台湾では、国際結婚(台湾人の父と、東南アジアや中国大陸出身の母…「新移民」「新住民」と呼ばれることがあります)が多く、その間で生まれた子どもたちが小学校のクラスにいることは決して珍しいことではありません。深く掘り下げられてはいませんが、教室(や社会)に多様な背景をもつ人たちがいることを見失わないでいるスタンスが、さりげなく表現されているように思います。


【いとこ】

後に自由を求めてアメリカに渡るいとこ(表哥)の阿文は、当時の戒厳令下の台湾社会で、特に言論上の抑圧を受けていたことがうかがわれます(アニメでの白色恐怖の表現は、抽象化された形ではありますが、大変巧みなものでした)。この阿文から聞いた話を、小hは小学校でみんなの前で話すのですが、後で教員からこの話はもうしないようにと言われて戸惑うシーンがあります。教員が小hにそう言ったのは、当時、こうした話が伝われば、本人や家族や関係者たちが捕まり、場合によっては命を失う可能性もあったからです。いつも厳しい教員が、いつもとは異なる質の厳しさをもって小hを口止めしたのは、冗談では済まない事態に発展し得ることがわかっていたからでした。

ちなみに、このいとこの阿文はアメリカに定住して伴侶を得たという設定ですが、映画の最初の方のシーンで、アメリカで生まれ育ったと思われる阿文の娘が、餃子をくさいと言って食べるのをいやがるシーンがありました。アメリカは自由な社会だという手紙をかつて送ってきた阿文が、アメリカに渡ったがゆえに中華文化が子どもに継承されない不自由さを味わっているというのは、印象的なコントラストです。


【進学】

中学生になった小hは、いくつかのエピソードを経て、熱心に勉強に取り組むようになります。めでたく有名高校に進学したという設定になっていますが、小hが着ている緑色の制服は、明らかに台北市立第一女子高級中学(「北一女」)のものです。北一女は台湾のトップの女子高で、小hが相当によい成績を挙げるに至ったことをうかがわせます。さらにその後、大学に進みますが、大学卒業時に椰子の木が両側に並ぶ通りで学帽を投げてジャンプし、歓喜するシーンがあります。椰子の木の通りから、そこが国立台湾大学のキャンパスであることがわかります。つまり、小hは高校に続いて、大学も有名大学(台湾でトップの大学)に進学したことが表現されているわけです。

ただ、有名校への進学が単純に礼賛されているわけではなく、むしろ進学をめぐる親からの期待やプレッシャーが背景にあることもしっかり描かれています。医学部に進んで医者になってほしい(=社会的に高い地位の仕事についてほしい、お金持ちになってほしい)という親の期待に反発し、社会的な問題意識とつながりのある勉強をしたいという思いを小hは貫徹しますが、それへの親の落胆と、そうした小hの選択をさりげなく後押しする祖母の姿の対比が印象的です。

ちなみに、小hの社会的な問題意識の高まりは、1990年代初めの台湾社会の民主化の気運を背景にしていますが、映画中には高校の同級生として、陳水扁(1994〜98年に台北市長、2000〜08年に総統)の娘(陳幸、、1976年生まれ)が登場します。この陳幸、は、社会的な問題意識から政治家となった父とは異なり、医者の道を選んだことがちらっと表現されていました。陳幸、は、作品中だけでなく実際に医者(歯科医)になっているのですが、こうした小hとは対比的な事例を置くことで、「医者なんかにならないのが“正解”だ」という話に帰着させないようになっています。

なお、高校生の小hがある本を読んで強いインパクトを受けるシーンがありますが、その本は史明の《台灣人四百年史》(『台湾人四百年史』音羽書房,1962年)です。史明が日本語で執筆したこの本は、1980年代にアメリカで中国語版や英語版が刊行され、アンダーグラウンドで当時の台湾にも入って読まれていました。
ちなみに、史明は戒厳令下の台湾を逃れて、約40年にわたり日本で暮らしていましたが、池袋で中華料理屋「新珍味」を開き営業していたことはよく知られています。現在もある「新珍味」には、宋欣穎監督も3月の東京アニメアワードでの来日時に、ちょうど池袋だったので訪れようとしていたようです。

今回はこのくらいで。まだ続きます…。

【追記】 このエントリの続き、「(3)」はこちらです。あわせてどうぞ!

posted by 研究員B at 01:31 | Comment(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月01日

『オン ハピネス ロード』(幸福路上)の台湾(1)

3月の東京アニメアワードで上映され、長編アニメ部門のグランプリを受賞した、台湾映画『オン ハピネス ロード』(原題:幸福路上FacebookInstagram)。この映画、本当に素晴らしい作品で、研究員AもBも観て本当に感動していました(観た直後のSNSでの言葉はこちら:研究員A研究員B)。

この作品の大きな特徴は、きわめて台湾ローカルな物語でありながら、普遍的なオーディエンスに響くものになっている点です。その点は本当に見事なのですが、台湾社会のさまざまな事実を積極的に取り込んだ物語でもあるため、やはり台湾についての理解や知識が少しでもあれば、作品の味わいが一層深まるようにも感じました。

というわけで、『オン ハピネス ロード』で描かれている台湾社会の背景や歴史について、自分が気づいたこと(映画を観て気づいたことや、映画を観たあとで調べてわかったことなど)を、少し書いてみることにします。この映画を気に入ったけど、台湾について詳しく知っているわけではないという人たちにとって、少しでも参考になれば何よりです。

既にこの映画を観たことがある人向けですので、ネタバレもあるかもしれません。また、わかりやすさを重視し、厳密さに目をつぶった点もあります。誤りや不十分な記述もあるかもしれません。問題点に気づいた方は、ぜひご指摘ください。

前置きが長くなりましたが、ではさっそく。


【舞台】

物語の中心的な舞台は「幸福路」。これは、現在の新北市新莊區幸福路がモデルだそうです。Googleストリートビューで検索すると、映画の中に出てくるのと同じ、現在の川の様子をみることができます。
小h(チー)の一家がもともと住んでいたのは、現在の高雄市六龜區という設定らしく、映画冒頭のシーンはそこから幸福路に引っ越してくるときの様子です。


【時代】

小hが生まれたのは、1975年4月5日という設定です。これは蔣介石が死去した日であり、物語ではその死を悲しむ人たちの姿と対比して、娘の誕生に喜び涙する父の姿が描かれていました。蔣介石については、台湾社会の発展を導いたという以上に、長期にわたる独裁的な体制を築いたことへの批判的な評価が現在ではしばしばなされますが、その死の日に生まれたという設定は、ちょうど台湾社会にとっての時代の転機に生まれたという含意が込められているように思います。


【言語】

小hが通う小学校の様子は、1980年代初めから半ばの小学校の様子が描かれています。まだ戒厳令(1949〜1987年)下の時代ですので、当然ながら、現在の台湾の小学校とは異なる点も多いのですが(蔣介石の銅像、政治的な主張の標語、教師の態度など)、その最も大きなものの一つは、言語に関することでしょう。

小学生に入ったばかりの小hたちが話しているのは、中国語の中でも、いわゆる「台湾語」と呼ばれる言葉です。小hたちにとって、日常生活で使うのは台湾語がメインだったようですが、当時の小学校教育の現場など、公的な場面では「國語」(日本でしばしば「北京語」と呼ばれるものに近い)を使うことがまだ強制されていました。映画でも、小学校の教師が國語の使用を強く指導する場面が描かれています。習ったばかりのソファの國語での言い方を、家で嬉々として話す小hに対して、台湾語での表現しか知らない父が複雑な表情を見せる場面もありました。

そんな中で、小hの隣の席に座る市長の息子はスムーズに國語を話していました。それは、彼が他の子どもたちとは違う、有力者の家庭に育ったことを含意してもいます。

ただ時期が下るにつれ、小hが話す言葉は國語メインになっていきます。國語での教育を受けてきた結果でもありますが、台湾社会において國語が公的言語というだけでない、日常の言葉になっていった過程を反映してもいます。久々に幸福路に戻ってきた小hに、かつて小学校で隣の席にいて國語を話していた市長の息子(自らの選挙運動中)が台湾語で話しかけ、かつて台湾語を話していた小hが國語だけで返答する場面は、時代の変化と社会の変化、日常語の地位の変化(日常語だった台湾語が、「地元密着」をアピールするためにことさらに政治家が使うものにもなったこと)、さらには小hがもともと持っていたものを失いかけていることを浮かび上がらせています。


【ベティ】

小学生の小hが友人となり、後のストーリーでも登場するベティ(貝蒂)は、父親がアメリカ人(空軍の兵士)で、台中にいる母のもとから離れて暮らしているという設定です。父親が戻ってくることを待ち望み、父のプレゼントというチョコレートを小hに分けるシーンもありました。

実際に、かつての台湾には米軍が駐留していました(駐臺美軍)。ベティの母がいるという台中には、「清泉崗空軍基地」がありました(現在の台中国際空港)。中国(中華人民共和国)が国連の代表権を得たことに伴い、台湾とアメリカは1979年に断交しています(ちなみに、台湾と日本との断交は1972年)。その前から規模の縮小は進んでいましたが、断交に伴い米軍の駐留は完全に終了しています。1975年生まれの小hとベティは同学年なので、ベティが小学校に入ったときは既に1980年代になっています。つまり、ベティがアメリカ人の父について笑顔で小hに語っていたその時点には、とっくに台湾に米軍の関係者は残っていなかったはずです。そのことを知らずに(聞かされずに)、ベティは過ごしていたのだということがわかります。

ちなみにベティが小hに分けたアメリカのチョコレートは、「HERSHEY's」と書いているようでそうではなく、「HISSHEY's」でした。これは単に本当の社名を避けただけかもしれませんが、ベティの父の話の虚構性と呼応するものといえるかもしれません。


今回はここまで。続きはまた追って…。

【追記】 このエントリの続き、「(2)」はこちら、「(3)」はこちらです。あわせてどうぞ!

posted by 研究員B at 21:03 | Comment(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年11月26日

2017金馬獎・結果

本日(昨日)、第54屆金馬獎の授賞式が行われ、各賞が発表されました。以下、受賞者・受賞作品をご紹介。詳しいノミネートリストは昨日のエントリをご参照ください。


●最佳劇情片(最優秀作品賞)
血觀音

●最佳紀錄片(最優秀ドキュメンタリー賞)


●最佳動畫長片(最優秀長編アニメーション映画)
大世界

●最佳劇情短片(最優秀短編映画)
亮亮與噴子(李宜珊)

●最佳動畫短片(最優秀短編アニメーション映画)
暗房夜空(石家俊,黃俊朗,黃梓瑩)

●最佳導演(最優秀監督賞)
文晏(嘉年華 『天使は白をまとう』:2017東京フィルメックス)

●最佳男主角(最優秀主演男優賞)
涂們(老獸 『老いた野獣』:2017TIFF)

●最佳女主角(最優秀主演女優賞)
惠英紅(血觀音)

●最佳男配角(最優秀助演男優賞)
陳竹昇(阿莉芙 『アリフ、ザ・プリン(セ)ス』:2017TIFF)

●最佳女配角(最優秀助演女優賞)
文淇(血觀音)

●最佳新導演(最優秀新人監督賞)
黃信堯(大佛普拉斯 『大仏+』:2017TIFF)

●最佳新演員(最優秀新人賞)
瑞瑪席丹(強尼.凱克 『ジョニーは行方不明』:2017東京フィルメックス)

●最佳原著劇本(最優秀オリジナル脚本賞)
周子陽(老獸 『老いた野獣』)

●最佳改編劇本(最優秀脚色賞)
黃信堯(大佛普拉斯 『大仏+』)

●最佳攝影(最優秀撮影賞)
中島長雄(大佛普拉斯 『大仏+』)

●最佳視覺效果(最優秀視覚効果賞)
林哲民, Perry KAIN, Thomas REPPEN(擺渡人)

●最佳美術設計(最優秀美術賞)
邱偉明(擺渡人)

●最佳造型設計(最優秀メーキャップ・衣装デザイン賞)
張叔平, 張兆康(擺渡人)

●最佳動作設計(最優秀アクション監督賞)
桑林(綉春刀 II 修羅戰場)

●最佳原創電影音樂(最優秀オリジナル映画音楽賞)
林生祥(大佛普拉斯 『大仏+』)

●最佳原創電影歌曲(最優秀映画主題歌賞)
有無(詞:王昭華 曲:林生祥 唱:林生祥 大佛普拉斯 『大仏+』)

●最佳剪輯(最優秀編集賞)
錢孝貞, 李博(塑料王國)

●最佳音效(最優秀音響効果賞)
杜篤之, 吳書瑤, 杜均堂(報告老師!怪怪怪怪物! 『怪怪怪怪物!』:2017TIFF)

●年度台灣傑出電影工作者(最優秀台湾映画人賞)
胡定一

●終身成就獎
徐楓


台湾映画に注目すると、多数の部門でノミネートされていた『大仏+』が、見事に多くの部門で受賞を果たしたこと、そしてなんといっても、《血觀音》が最佳劇情片と、最佳女主角・最佳女配角の両部門で受賞したことがニュースでしょう。両作品によって、今年の金馬獎における台湾映画の存在感は非常に大きなものになったと思います。

『大仏+』の受賞ラッシュは本当にすごかった。音楽2部門を両方獲るとはびっくり。そして、《血觀音》もインパクトのある受賞結果でした。最佳女主角・最佳女配角が同じ作品から同時に出るなんて、前例のあることなんでしょうか? 両作品とも、日本で公開されることになるといいのですが(《血觀音》については、まずは映画祭などでの上映からかもしれませんが)。受賞した実績が、日本公開への後押しになることを期待したいところです。

個人的には、東京国際映画祭や東京フィルメックスで観たばかりの『アリフ、ザ・プリン(セ)ス』や『ジョニーは行方不明』から受賞が出たのも印象に残りました。特に最佳男配角の陳竹昇は『大仏+』での演技も印象的だったので、2作分の活躍の結果のように感じてしまいました。

また、川井憲次・久石讓というビッグネームの日本人2人がノミネートされた最佳原創電影音樂で、受賞した林生祥とともに、大竹研・早川徹という2人の日本のミュージシャンが壇上に上がったことも、受賞リストだけでは見えてこない日本からの活躍ぶりを示すものとして、特に記しておきたいと思います。

というわけで、予告編を少しだけ貼り付けておこうと思います。昨晩のノミネートリストについてのエントリで紹介していないものを……と考えた結果、やはり多数の部門で受賞した2作を貼ることにします。

まず『大仏+』。東京国際映画祭や東京フィルメックスで既に上映された作品は、紹介の優先度を落としているのですが、これについては改めて紹介したくなりました。とってもユニークで、ぜひとも日本でまた上映されてほしい作品です。ちなみに東京国際映画祭で観たBのコメントはこちら



そして《血觀音》。楊雅賦ト督の新作は、惠英紅(最佳女主角)、吳可熙(『マンダレーへの道』)、文淇(最佳女配角)の3人以外にも、陳莎莉・王月・温貞菱・陳珮騏・大久保麻梨子とずらりと並ぶ出演者リストは、独特の迫力(?)があります。ざわざわ感が高まらずにはいられない予告編はこちら。



この2作品をはじめ、多くの作品が日本で上映されることを祈りたいと思います!

posted by 研究員B at 02:30 | Comment(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年11月25日

2017金馬獎・ノミネートリストの再チェック

あっという間に、今年の金馬獎の発表が目前に迫ってきました。というわけで恒例の、発表直前のノミネートリストを再チェックするエントリです。

明日(今日)11/25(土)に発表されるのは、第54屆金馬獎です。頒獎典禮(授賞式)の会場は、ここ5年くらいずっとそうですが、台北・國父紀念館。今年の主持人は昨年に続き陶晶瑩、星光大道(レッドカーペット)の主持人はおなじみ楊千霈と、劉傑中の二人です。

今回も例年同様、ほぼリストのみの長〜いエントリですが、ご容赦を! 台湾が関係する作品を中心にみていきます。


●最佳劇情片(最優秀作品賞)
輕鬆+愉快
大佛普拉斯(『大仏+』:2017TIFF)
相愛相親(『相愛相親』:2017東京フィルメックス)
嘉年華(『天使は白をまとう』:2017東京フィルメックス)
血觀音

個人的にはTIFFで観てとっても面白かった『大仏+』が断然注目ですが、『GF*BF』の楊雅賦ト督の新作《血觀音》も気になります。『相愛相親』も『天使は白をまとう』も強そうですが。

●最佳紀錄片(最優秀ドキュメンタリー賞)
羅長姐

塑料王國
徐自強的練習題
你找什麼?

《徐自強的練習題》は、死刑判決を受けたものの無実を訴え続け、16年を経て終身刑のまま釈放された人物をめぐるドキュメンタリーとのこと。《你找什麼?》は、4年をかけて7つの都市で60人のゲイにインタビューを行った作品。《你找什麼?》の予告編を貼り付けておきます。



●最佳動畫長片(最優秀長編アニメーション映画)
大護法
大世界
小猫巴克里

《小猫巴克里》は、先日TAIWAN TODAYで紹介記事が出ていました。もともと公視で放送されていたアニメで、2011年に金鐘獎でアニメ番組の賞を受賞しているとのこと。猫の巴克里は、叉燒と鳳梨酥が好きで魚は嫌いというネコのキャラクター。予告編はこちら:



●最佳劇情短片(最優秀短編映画)
阿爾祖之夜(陶比科.尼扎米丁)
盲口(梁秀紅)
愛在世界末日(蔡宗翰)
亮亮與噴子(李宜珊)
層層摺起的寂寞(溫知儀)(『ドレスにかくされた秘密』:キネコ国際映画祭2017)

この部門、マレーシア出身の梁秀紅監督による台湾・マレーシア映画の《盲口》を含めると、台湾関連の作品が5つのうち4つを占めています(《愛在世界末日》《亮亮與噴子》《層層摺起的寂寞》)。《愛在世界末日》は李鴻其と李千娜が出演、監督の蔡宗翰はかつて『九月に降る風(九降風)』や『ビバ!監督人生!!(情非得已之生存之道)』の脚本に関わっていたとのこと。
予告編が一番気になったのはこの作品、18歳のシングルマザーを描く《亮亮與噴子》。



●最佳動畫短片(最優秀短編アニメーション映画)
基石(邱士杰)
(迷)留(姚江)
啟示錄−霧霾之城(毛啟超)
關於他的故事(楊詠亘)
暗房夜空(石家俊,黃俊朗,黃梓瑩)

台湾作品は、《基石》《(迷)留》《關於他的故事》の3作品。予告編が印象に残ったのは、《關於他的故事》。祖父の人生から浮かび上がる、台湾の歴史と人々の経験。



●最佳導演(最優秀監督賞)
耿軍(輕鬆+愉快)
張艾嘉(相愛相親 『相愛相親』)
文晏(嘉年華 『天使は白をまとう』)
許鞍華(明月幾時有)
楊雅普i血觀音)

ここも注目の部門。誰になるのでしょう。

●最佳男主角(最優秀主演男優賞)
莊凱(目擊者 『目撃者 闇の中の瞳』:2018.1日本公開)
黃渤(冰之下 『氷の下』:2017東京フィルメックス)
涂們(老獸 『老いた野獣』:2017TIFF)
金城武(擺渡人)
田壯壯(相愛相親 『相愛相親』)

莊凱、ノミネートされています。なんといってもこの部門の注目は金城武かもしれませんが、さあどうなる?

●最佳女主角(最優秀主演女優賞)
舒淇(健忘村 『健忘村』:京都ヒストリカ国際映画祭2017)
張艾嘉(相愛相親 『相愛相親』)
文淇(嘉年華 『天使は白をまとう』)
惠英紅(血觀音)
尹馨(川流之島)

《川流之島》は短編《狀況排除》の・京霖監督による作品(電視電影)。尹馨はこの作品で今年の台北電影獎の最佳女主角獎を受賞しています。14歳の文淇は台湾生まれ・北京育ちなのだとか(フォーカス台湾)。

●最佳男配角(最優秀助演男優賞)
李淳(目擊者 『目撃者 闇の中の瞳』)
雷佳音(綉春刀 II 修羅戰場)
戴立忍(大佛普拉斯 『大仏+』)
陳竹昇(阿莉芙 『アリフ、ザ・プリン(セ)ス』:2017TIFF)
梁家輝(明月幾時有)

『アリフ、ザ・プリン(セ)ス』から陳竹昇がノミネート! 李安の息子の李淳、金馬獎でのノミネートはたぶんこれが初めて。でもやはり、あの役を演じた戴立忍が個人的には一番の注目。

●最佳女配角(最優秀助演女優賞)
吳彥姝(相愛相親 『相愛相親』)
陳湘h(接線員)
葉コ嫻(明月幾時有)
文淇(血觀音)
許瑋ィ(紅衣小女孩2)

文淇はこの部門でもノミネート、すごいです。《接線員》はロンドンが舞台、主演は紀培慧、監督は盧謹明。ちなみに盧謹明の弟は、棋盤上的空格聲子蟲のメンバーである盧律銘で、《接線員》の音楽にも関わっているとのこと。《紅衣小女孩2》は2016年の《紅衣小女孩》の続編、監督は『目撃者 闇の中の瞳』の監督でもある程偉豪。許瑋ィは《紅衣小女孩》《紅衣小女孩2》『目撃者』のすべてに出演しています。
ここでは、ヨーロッパ映画のような雰囲気も感じさせる、《接線員》の予告編を貼り付けておきます。



●最佳新導演(最優秀新人監督賞)
黃熙(強尼.凱克 『ジョニーは行方不明』:2071TIFF)
陳勝吉(分貝人生)
黃信堯(大佛普拉斯 『大仏+』)
周子陽(老獸 『老いた野獣』)
・京霖(川流之島)

《分貝人生》の陳勝吉監督はマレーシア出身ですが、台灣藝術大學電影系の出身とのこと。台湾の3監督(黃熙・黃信堯・・京霖)の中では、やはり黃信堯監督を推したいけど、どうなるでしょう。

●最佳新演員(最優秀新人賞)
瑞瑪席丹(強尼.凱克 『ジョニーは行方不明』)
蔡凡熙(痴情男子漢 『全ては愛のため』:京都国際映画祭2017)
鍾楚曦(芳華)
張傲月(刀背藏身)
吳念軒(紅衣小女孩2)

ここ、気になる部門です。東京フィルメックスで『ジョニーは行方不明』を観たばかりなので、瑞瑪席丹(リマ・ジダン)に注目してしまうけど、未見の他の作品の面々も気になります。『全ては愛のため』は、『運命の死化粧師』『甘い殺意』の連奕g監督の作品。蔡凡熙は公視の人気ドラマ《通靈少女》にも出演、映画『怪怪怪怪物!』では老大を演じていました。

●最佳原著劇本(最優秀オリジナル脚本賞)
劉健(大世界)
周子陽(老獸 『老いた野獣』)
張艾嘉, 游曉穎(相愛相親 『相愛相親』)
王育麟, 徐華謙, 花柏容, Juliana HSU, 陳慧玲(阿莉芙 『アリフ、ザ・プリン(セ)ス』)
楊雅普i血觀音)

●最佳改編劇本(最優秀脚色賞)
李保羅(村戲)
黃信堯(大佛普拉斯 『大仏+』)
王家衛, 張嘉佳(擺渡人)
嚴歌苓(芳華)
徐浩峰(刀背藏身)

●最佳攝影(最優秀撮影賞)
王維華(輕鬆+愉快)
陳克勤(分貝人生)
中島長雄(大佛普拉斯 『大仏+』)
Matthias DELVAUX(老獸 『老いた野獣』)
鮑コ熹, 曹郁(擺渡人)

中島長雄は、ご存じの通り撮影のときだけ鍾孟宏監督が名乗る名前。昨年の『ゴッドスピード』に続くノミネート。

●最佳視覺效果(最優秀視覚効果賞)
葉仁豪, 劉惟熠(目擊者 『目撃者 闇の中の瞳』)
全鴻錕, 翁國賢, 陳迪凱(喜歡.你 『こんなはずじゃなかった!』:2017TIFF)
林哲民, Perry KAIN, Thomas REPPEN(擺渡人)
包正勳, 黃美青(報告老師!怪怪怪怪物! 『怪怪怪怪物!』:2017TIFF)
黃智亨, 徐建(悟空傳 『悟空伝』:2018.2日本公開)

『こんなはずじゃなかった!』『怪怪怪怪物!』『悟空伝』は、この部門で初登場。

●最佳美術設計(最優秀美術賞)
黃美清(健忘村 『健忘村』)
趙思豪(大佛普拉斯 『大仏+』)
邱偉明(擺渡人)
石海鷹(芳華)
蔡珮玲(血觀音)

●最佳造型設計(最優秀メーキャップ・衣装デザイン賞)
梁婷婷(綉春刀 II 修羅戰場)
吳里璐(健忘村 『健忘村』)
張叔平, 張兆康(擺渡人)
劉曉莉(芳華)
王佳惠(血觀音)

●最佳動作設計(最優秀アクション監督賞)
桑林(綉春刀 II 修羅戰場)
谷軒昭(悟空傳 『悟空伝』)
安萬コ(引爆者)
徐浩峰(刀背藏身)
洪金寶(殺破狼.貪狼)

●最佳原創電影音樂(最優秀オリジナル映画音楽賞)
林強, 許志遠(強尼.凱克 『ジョニーは行方不明』)
川井憲次(綉春刀 II 修羅戰場)
林生祥(大佛普拉斯 『大仏+』)
久石讓(明月幾時有)
安巍(刀背藏身)

なんと日本人が二人も。しかもどちらもビッグネーム。

●最佳原創電影歌曲(最優秀映画主題歌賞)
我愛香格里拉(詞:劉健 曲:王達 唱:朱虹, 王達 大世界)
搖籃曲(詞:梁龍 曲:二手玫瑰樂隊 唱:梁龍 輕鬆+愉快)
有無(詞:王昭華 曲:林生祥 唱:林生祥 大佛普拉斯 『大仏+』)
讓我留在你身邊(詞:唐漢霄 曲:唐漢霄 唱:陳奕迅 擺渡人)
陌上花開(詞:林珺帆 曲:黃韻玲 唱:譚維維 相愛相親 『相愛相親』)

この部門、個人的にはやはり『大仏+』の片尾曲・林生祥の「有無」が味わい深くて素晴らしく、注目です。林生祥なので客家語かと思ったけど、「客家腔台語歌」とのこと。MVには大竹研と早川徹も登場。若干ネタバレ感ある映像を含むので、映画未見の方はご注意!



●最佳剪輯(最優秀編集賞)
錢孝貞, 李博(塑料王國)
林楷博(目擊者 『目撃者 闇の中の瞳』)
ョ秀雄(大佛普拉斯 『大仏+』)
廖慶松(笨鳥)
雪蓮, 鄺志良(明月幾時有)

●最佳音效(最優秀音響効果賞)
高偉晏, 陳維良, 好多聲音(目擊者 『目撃者 闇の中の瞳』)
温波(冰之下 『氷の下』)
杜篤之, 吳書瑤(大佛普拉斯 『大仏+』)
杜篤之, 吳書瑤, 杜均堂(報告老師!怪怪怪怪物! 『怪怪怪怪物!』)
李銘杰, 楊嚞兢, Warren SANTIAGO, Richard HOCKS(紅衣小女孩2)

●年度台灣傑出電影工作者(最優秀台湾映画人賞)
胡定一

今年の傑出電影工作者は、『フォーリー・アーティスト』(擬音:2017TIFF)で描かれていた胡定一!

●終身成就獎
徐楓


今年は10部門ノミネートの『大仏+』や、7部門ノミネートの《血觀音》をはじめ、複数部門でノミネートされた台湾作品が目立ち、台湾映画の存在感は昨年よりも大きいように思います。もっとも、「台湾映画」の線引きも単純ではないので、過度に「台湾映画」であることにこだわる必要もないのはもちろんのこと。どこの映画であれ、魅力ある映画がこの中に多々あるはずと思うと大変楽しみになります。

当日は、林俊傑と蔡依林のパフォーマンスも予定されていると報道されています。今年もYoutubeで生中継があると思うので、このリストを観ながら楽しんでいただければ幸いです!

posted by 研究員B at 01:57 | Comment(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする