2010年08月14日

台湾語・台湾華語の教材情報5 歴史資料編

「台湾語・台湾華語の教材情報」シリーズ5回目。今回は歴史資料編。台湾語・台湾華語の教材をリサーチする中で研究員Aがめぐりあった明治〜昭和前半の台湾語の教材情報をご紹介。現代日本で台湾語を学ぶには何の役にも立たない情報かもしれないけれど、ぱらぱら眺めてみたらすっごく面白かった。なんでかというと、「語学教育」のメソッドが、過去の日本でどう展開していたかがよく分かる。しかも「台湾語」という過去に研究蓄積がまったくない分野で。台湾に興味があって、語学に興味があって、過去の日本に興味がある研究員Aにとっては、なかなかツボな素材だったのだ。

というわけで、やや好事家的な内容になるけれど、研究員Aが実際に手に取ってみることができた台湾語教材を5冊ほどご紹介。古い日本語、研究員Aは好きなのでそのまま引用してしまったけれど、苦手な方はとばして読んでください。漢字やかなの表記は読みやすいように適宜手を加えました〜。

でも私はもっと普通の台湾語・台湾華語教材の情報が知りたいよー、という方は、「きっかけ編」「台湾語教材編」「台湾華語教材編」「辞書編」などをお読みください。

では、いざ。

1. 川合真永 『新撰実用 日台会話自在』 (台北:台湾語通信研究会、1912年)
ともかく文法を体系的に説明しようとした本。名詞、代名詞、形容詞、動詞…と品詞ごとに解説。その上で、後半は会話集。著者は、「近来時勢の発展に伴ふて、日台語学研究者の数が大に増して来たにつれ随って多数の日台会話書が、種々の名称の下に出版されて居るが、何れも単純なる会話編で、根本的に言語の構成法を説いた書物は一冊もない」と冒頭で嘆いている。だから、きちっとした文法解説書を作りたかったのだと思う。こういう語学を学ぶメソッドが日本でどういう風に発達してきたのか、研究員Aはよく知らない。でもぱらぱら読んだだけでも、筆者がすごく苦労しながら「台湾語」という新しい分野で文法書を作り上げようとしているのはよくわかる。わかるけど…、これって読んで理解できるのかな。「人称代名詞に名詞を附する場合には原則として代名詞と名詞との間に「的」なる助詞を挟まねばなりません」とか。いやまあ、その通りなんだけど、すべて文法がこうやって文章で説明されているのって、現代としては異様じゃないですか。記号を使ったり、図を使ったり、視覚的に教材を工夫してるから。実際、私はこれを読んでて、逆に混乱した。

2. 劉克明 『国語対訳 台語大成』 (台北:新高堂書店、1916年)
ここで言う「国語」は「台湾華語」ではなく、「日本語」。内容は「音調篇」(発音)、「語法篇」(文法)、「会話篇」と大きく三つに分かれている。特に発音のところは力を入れたと著者自身も書いていて、「台湾語の「ム」と国語の「ム」の差異」「台湾語の「ヌ」と国語の「ヌ」の差異」「台湾語の「ン」と国語の「ン」」などという項目が目次には並ぶ。カセットやらCDやら抱き合わせで販売できない時代だもんね。この辺の発音教育は大変だあ。ちなみに「台湾語の「ム」と国語の「ム」の差異」は次のように説明されてます。

台湾語の「ム」は上下の唇を密閉して其の音を鼻腔から漏らして生ずる音(唇的鼻音)ですが、国語の「ム」は一旦右の如く音を鼻腔から出して其のあとに閉ぢた唇を開いて「ウ」の音を発するのですから、台湾語の「ム」と国語の「ム」は違ひます。

…わかりますか? 私はわかんないです…。

3. 岩崎敬太郎 『羅馬字発音式 台湾語典』 (台北:台湾語典発行所、1922年)
すっごくオーソドックスな台湾語入門書。冒頭に、「本書は普通の脳力を有する講習者をして、約80時間に簡易なる台湾語の大体を正則に習得せしむるの目的を以て編纂せり」と書いてある。今風に言えば、「80時間で台湾語をマスター!」って感じ? でも、第一章の「音」(母音・子音)から始まって、2.「調」(声調)、3.「音便及転調その他」(声調変化や語尾の変化)、4.「語法」(簡単な文法」、最後に「単語類集」っていう構成は、今の語学学習書とすごく近い。なんか眺めているうちに、「これならマスターできるかも」と私は思ってしまいましたよ。ところで、この本で特徴的なのは、タイトルにもあるようにローマ字式」の発音表記があること。でも、何しろ縦書きしか存在しない時代の本だから、こんなことになる。

台湾語辞書1.jpg

上が台湾語(漢字にひらがなルビ)、真ん中が日本語訳、下がアルファベット発音表記。正直見にくい。でも、これって出版社が活字にするの、かなり面倒だよね? ううむ。ご苦労がしのばれる。

4. 熊谷良正 『台湾語之研究』 (台北:台湾日々新報社、1931年)
厚い。『中日大辞典』くらいの厚さがある。このぐらいになると、研究の蓄積もたまってきたのかしら。内容も「発音」「音調」「単語集」「語法1〜18」「日常の挨拶」と充実。「本書は母国人及本島人をして約一箇年に彼此の言語を修得せしむる目的を以て編纂致しました」。つまり一年で台湾語がマスターできるように作った教材だってこと。「3」が「80時間」だったのだから、それより厚くなるのは当然か。しかし「語法」(文法)項目は圧倒的な充実ぶりで、ぱらぱら目次を眺めているだけでも勉強になる。中国語は文法というよりも、特徴的な言い回しをたくさん覚えるのが重要、ってとこあるじゃないですか。そういう「言い回し」がたくさん載っている。だから、これ一通りマスターしたら、相当できる人になってるだろうなー、という予感がする。

5. 片岡巌『日台俚諺詳解』(台南:台湾語研究會、1913年)
ことわざ辞典。日台、台日、日本語の順でことわざが並べられている。「辞書編」で紹介した『五カ国語共通のことわざ辞典―日本語・台湾語・英語・中国語・韓国語対照』と違って、軸になっているのは日本語。いつの時代でも、こうやってことわざを集めようという人が現れるっていうのは面白い現象だよな、と思う。あと興味深かったのは、台湾の中でも北部だけ、南部だけで通用する諺がある、と凡例で言及されていること。なるほど。過去の台湾なら、それはありそう。逆に現代はどうなのかな?と変なところが気にかかる。

6. 安倍明義編 『蕃語研究』 (台北:蕃語研究會、1930年)
これは台湾語の本ではない。でも見つけて、衝撃を受けたのでご紹介。これは、原住民語の解説本。取り上げられているのはアミ語、プユマ語、パイワン語、サリセン語、ブヌン語、ヤミ語、クバラン語。そしてそのそれぞれについて、文法、会話、単語の解説がされている。一つ一つはそれほど長くはないが、これだけ並べてあると、当然のことながら本は厚くなる。もうこうなってくると、中身について評価することは不可能。しかし、一つの言葉に16の言語(原住民語+α)が対応する形で並べられている単語集など、見てるだけで圧巻。すごい。

以上5冊。そんなに一生懸命探したわけではないのにこれだけぽろぽろ出てくるってことは、昔はいっぱい台湾語の教材が出ていたんだろうなー、と思わず感慨にふける。それで、ふと思い立って国会図書館の近代デジタルライブラリーで「台湾語」で検索してみたら、教材っぽいものが5冊ほどヒット。「日台」でも4冊ヒット。興味のある方はこっちも見てください。該当の本がすべてPDFで見られます。(ありがとう、国会図書館!)

しかし、現代の台湾ブームのおかげで充実してきた台湾語・台湾華語教材をリサーチし、その過程で過去の台湾語教材も手に取る機会を得た研究員A。なんだか色々と、それはもういろいろと思うところがあった。せっかくなので明日、シリーズ最終回として「終わってみての雑感編」を書きます。しつこいようですがお付き合いください。

関係ないけど、今日とりあげた本のいくつか。閉館間際とは言え、閲覧室で携帯のシャッター音ならしながら写真を撮っていた私を見逃してくださった他の閲覧者の皆さま、ご迷惑をおかけしました。見てないだろうけど、ここで謝ります。もうしません。

台湾辞書3.jpg
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posted by 研究員A at 23:38 | Comment(0) | TrackBack(0) | 語学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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